第2章 - 1 出会い(6)
1 出会い(6)
――やだ!
そう声になったか、ならなかったか?
とにかく心でそう叫び、と同時に顔を一気に引っ込めた。
その後はドキドキのしっ放し。ただでさえ問題の多い心臓が、ここぞとばかりに力強い鼓動を連打する。
茶髪の彼が優衣を見上げていたのだった。
いつの間にか動きを止めて、その手にはサッカーボールがしっかりとある。
とうぜん目と目が合って、不思議そうにしている顔から視線を逸らし、そのまま慌てて窓から顔を引っ込めた。そうして一瞬、窓を閉めるかどうかで悩むのだ。
しかしそんなことをすれば、いかにも覗いていたと言わんばかりという気もする。
実際そう思うかは別として、いきなり窓を閉めればきっと変だと思うだろう。
だからそのまま開けっぱなしで、優衣は布団をかぶってベッドにゴロンと横になる。
わたしはずっとこうしていたわ……なんて感じを演じてみるが、心臓の鼓動は〝嘘〟だと必死に告げている。
ただとにかく、幸い死んでしまうこともなく――もちろんあの後、彼がどうしていたかを知ることもないまま――次の日の午後をいつも通りに迎えるのだ。
もちろん最初は、二度と窓には近付かないと決めていた。
もう覗いたりしないと誓っていても、昼が近づくにつれなんとも心が揺れ始める。もうすぐ一時という頃には、彼女の決心はどこか遠くへ消え去っていた。
――別にいいじゃない! 窓を開けなきゃ大丈夫なんだから……。
カーテン越しに見ていれば……その上ジッとしてさえいれば、絶対気付かれないと優衣はしっかり決め付けた。
――ほら、ぜんぜん大丈夫じゃない!?
十分くらいしてやっとそう思えたが、最初はけっこうドキドキだ。いつも通りに現れた少年が、いつ上を見上げないかと生きた心地がしなかったのだ。しかしカーテンの隙間から見える彼は、相変わらずリフティングに一生懸命。だから……、
――きっと、昨日のことは、何かの見間違いだと思ったんだわ!
そう思えた頃には、昨日のことなどまったくもって気にならなくなった。
そうして優衣は窓の下を見続けて、最初、その声にも気付かない。
「あら、わたしの声が聞こえないくらいに、何を一生懸命見てるのかしら?」
そんな言葉も、隣に人影を感じてやっと耳に届いた感じだ。
「へえ〜、こんなところでサッカーかしら?」
なんて言葉が、すぐ真横から聞こえてきたのだ。
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