第112話


「…別に。なんでもない。放っておいてくれ」


「まぁまぁ、そう言わずに。何か悩みがあるのでしょう?わかりますよ」


「違う。悩みなんてない。俺に構わないでくれ」


「あら、冷たいですねぇ。いいじゃないですか、ちょっと話してみるくらい。私、安藤さんの力になりたいんです」


「お前に力になってもらうことなんてない」


「本当にそうでしょうか?こんな私にも何かしら、出来ることはあるはずです。それに、話してみるだけでも楽になるかもしれませんよ?」


目立ち立ちたくない俺は、巨大財閥令嬢四ツ井との関わり合いを避けるために、何度も四ツ井の申し出を拒絶する。


が、四ツ井もなかなか引き下がらない。


執拗に、何度も何度も話してみろと迫ってくる。


「はぁ…わかったわかった!話すから…」


「ふふっ」


そして、ついには俺が折れることになった。


このまま黙っていても、話すまで付き纏われそうだ。


それならさっさと話してしまった方が早いと判断した。


別に全力で隠すようなことでもないからな。


「なるほど…引越しをしたいのに、審査落ち、ですか…」


悩みを四ツ井に打ち明けると、四ツ井は意味ありげにニヤッと笑った。


「うふふ…安藤さん。話してくれてありがとうございます。これなら…力になれそうです」


「え…な、何をする気だ…?」


「任せてください、安藤さん。電話をかけた引越し先の候補を教えてくださいますか?」


「いや、それは…」


「お願いします!悪いようにはしませんから!」


「わ、わかった…」


ずいっと身を寄せてくる四ツ井に押されるようにして、俺は電話をかけ、断られた引越し先候補を教える。


四ツ井はふむふむと頷きながら、手帳にその連絡先を丁寧にメモしていた。


「はい。わかりました。安藤さん。全て私に任せてください」


パタンとメモ帳を閉じた四ツ井がにっこりと笑う。 


「な、何がだよ…?」


「安藤さんの悩みはすぐに解決されます。これで引越し先に困ることもありませんよ」


「はぁ…?」


意味不明なことを言い出した四ツ井に、俺は身震いをしてしまう。


まじで何をする気なのだろう…


嫌な予感しかしないのだが。


「今日帰宅すればわかると思います。ふふっ…安藤さんの力になれてとても嬉しいですよ」


「…は、はぁ」


「ところで安藤さん」


「な、なんだ…?」


四ツ井が少し恥じらうように言った。


「もしこの問題が解決した暁には…私の願いを一つ聞いてくれませんか?」





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