第81話
「選手交代。ここからは安藤くん、よろしく頼むわ」
「…あいよ」
七階層からは有村に変わって、俺が先頭になることになった。
まぁ、元々この階層域を訪れたのは俺のオーク狩りのためだしな。
これが妥当な配置なのだろう。
「安藤くん。あなたの全力、私に見せて」
「…悪いがそれは断る」
「…ケチね」
「無理なものは無理だ」
有村はどうあっても俺の力が見たいらしい。
だが、俺が本来の力を解放したら、こんなダンジョン一発で崩落だ。
俺はいいにしても、現在進行形でダンジョンに潜っている他の探索者たちが生き埋めになってしまう。
どちらにせよ力はセーブしないといけない。
「まぁ、いいわ。オーク狩りだって、そう楽なものじゃないだろうし…まじかであなたの実力の片鱗でも見れれば今日はよしとしましょう」
「私も楽しみです、安藤さん。この間私を助けていただいた時は、スキルを使っていませんでしたよね?私も安藤さんのスキルに興味があります」
「…そう期待されてもなぁ。俺のスキルなんて有村に比べたら大したことないぞ」
もちろんこれは、俺がスキルだってことにしている炎魔法のことだ。
俺は今日、二人の前で、炎魔法以外のいかなる力も使うつもりはない。
有村はある程度俺の力に感づいているが…しかし、まだ確証はないはずだ。
特に有村の前で、力を出すべきではない。
というか、出来れば、オークをギリギリに倒して、俺は二人を失望させたい。
俺が探索者として大したことないとわかれば、二人も自然と俺から離れていってくれるかもしれないからな。
『ブォオオオ…』
「おっ、お出ましだな」
そうこうしているうちに、早速ターゲットであるオークが現れた。
「安藤くん、頼んだわ」
「安藤さん、頑張ってください!」
二人が背後に下がって期待の眼差しで俺を見てくる。
俺はこの単体のオークに対して、出来るだけ苦戦することにした。
「よし…まずは…ファイア・ボール!」
俺は自分のスキルってことにしている炎魔法の最も威力の弱いファイア・ボールを放った。
しかも、魔力を最小限に控えたかなり弱いファイア・ボールだ。
狙いも急所を外してある。
これならオークといえど一撃で死ぬことは…
バァン!!
『ブォオオオオオ!!!』
ファイア・ボールは俺の狙い通り、オークの右腕に命中。
だが、俺のファイア・ボールに対してオークの体があまりにも脆く、そのままオークの上腕部を巻き込んで粉々に打ち砕いてしまった。
結果、オークは断末魔の悲鳴とともに倒れ動かなくなる。
苦戦するつもりが、一撃で倒してしまった。
「わぁ!流石です、安藤さん!」
パチパチと四ツ井が拍手をする。
「まぁ、このくらいはやってもらわなきゃね」
有村も失望した感じはなく、むしろ好感触だった。
やってしまった…
オークってこんなに脆かったか…?
次はもっと弱めにファイア・ボールを打って手加減しなければ…
だが注入する魔力量に加減があるから、これ以上の手加減は難しいぞ…
「…どうすれば」
俺はどうやったらオークを苦戦して倒せるか、必死に考えた。
だが、どう頑張ってもオーク如きに苦戦する方法が思いつかなかった。
…その結果。
「ふぁ、ファイアボール!」
バァン!
『グォオオオオオオオ!!!』
「ふぁ、ファイアボール…頼むっ、耐えろ(ボソッ)」
バァン!
『ブォオオオオオ!!!』
「ファイア・ボール…!よし、今度こそ…!」
バァン!!
『ブォオオオオオ!!!』
「くそっ!!なんでだよっ!!」
どう足掻いてもオークを一撃で倒してしまい、結果的にオーク狩りは相当捗ってしまった。
有村も四ツ井もかなり感心してしまっている。
「流石の手際ね、安藤くん」
「すごい…これほど強力なのですね、安藤さんのスキルは。他にはどんなことが出来るんですか?」
「あー…あとは、炎を操ったりとか、その程度だよ…あんまり大したことないスキルっていうか…」
「いやいや、大したことあり過ぎですよ!!私、尊敬します!!」
「うっ」
「流石の攻撃力だわ、安藤くん。やはり私はあなたが欲しい。あなたと私がクランを組めば敵なしよ」
「ぐ…」
結局作戦は失敗。
俺は二人からの評価を下げるどころか、逆にあげてしまい、肩を落としながらオークたちの魔石を回収するのだった。
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