第64話


ポーンと音がなってエレベーターが静止した。


開いた扉から、駐車場となっている屋上へと出る。


「こっちです。ボスはここにいます」


奴隷化したテロリストの男に先導されて、俺は車の間を縫うようにして歩いた。


「あれがボスです」


「…そうか」


その男は車の中にいた。


並べられた車体の中の一つ。


運転席に座り、カタカタとパソコンをいじっていた。


こちらの存在にはまだ気づていないようだ。

俺がコツコツと窓を叩くと、怪訝な表情をこちらに向けた。


男は車から出てくる。


「おい、ナンバー35。そいつは誰だ?」


「…」


おそらく俺の隣の手下に話しかけているのだろう。


「答えろ、ナンバー35。こいつは誰だ?」


「…」


「ナンバー35。お前の配置の3階からの交信が途絶えているぞ。何があったんだ?」


「…」


ナンバー35と呼ばれている手下は何も答えない。


当然だ。


奴隷化しているこいつは、俺以外の指示には従わない。


ボスと思しき男は、ようやく異変に気づいたようだ。


ナンバー35に呼びかけるのをやめて、今度は俺に視線を向けてくる。


「お前は何者だ?俺の手下に何をした?」


「お前がこいつらのボスか?」


「質問に質問で返すのか」


「…」


「…」


しばし無言の時間が続いた。


先に静寂を破ったのは向こうのほうだった。


「先ほどの質問の答えはイエスだ。俺がアンノウンのボスだ。お前の隣にいるのはナンバー35。俺の手下だ」


「…そうか」


「今度はお前が答える番だぞ。俺の手下に何をした?様子がおかしいようだが?」


ボスが空な瞳で突っ立っている自らの手下を見ながら言う。


俺は答える。


「奴隷化した。こいつは今、俺の命令にしか従わない」


「…奴隷化?それがお前のスキルか?」


「…まぁ、そんなところだ」


「そうか」


「そうだ」


「…」


「…」


再び睨み合い。


ボスの視線が次第に険しくなっていく。


殺気が全身から放たれ始めた。


「ここへ何をしにきた?」


「あんたらを倒しに来た」


「はっ、倒しに…?一人でか?」


「お前らぐらい、一人で十分だ」


「そうか…三階の仲間と交信が途絶えているんだが、お前が何かしたのか?」


「こいつ以外全員無力化した」


俺が隣にいるナンバー35を軽く蹴りながら言う。


「なるほど…」


ボスの目が細まる。


「どうやら相当強力なスキルを持っているようだな」


「…」


「一人一人が強力なスキルを持ち、かつ訓練された俺の部下を倒すとはなかなかやる。一人で乗り込んできたところを見るに、自信もあるようだ。だが、お前が俺に勝つことはできない」


「…どうしてそう言い切れる?」


「戦ってみたらわかるさ」


アンノウンのボスがニヤリと笑った。



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