第172話 来訪者⑦
「というわけで……こちらが
シルヴィスはズラリと並ばされた
レティシア達に蹂躙された
「あ〜何というか。君達は不運だったな。とんでもないことに巻き込まれたことは同情するが、今までの君たちのやってきたことの結果と思えば諦めも着くのではないか?」
キラトの言葉は丁寧なものであるが、心の底から同情、共感の類の感情が欠けているのは明らかである。
「君達、
キラトの言葉に
「それでシルヴィス……こいつらはどうするんだ? はっきり言ってうちの軍に入れるには足手まといにしかならんぞ」
キラトの言葉は容赦が一切ない。だが、実際に各軍団の精兵に対して
「こいつらはレンヤ達の元で働かせる」
「レンヤ達? こいつらの指揮をさせるつもりか。あの三人は兵とすれば中々のものだが、将としては素人だぞ」
「誰でも素人の時期はあるものだろ?」
「それを言われれば弱いな」
シルヴィスの言葉にキラトは苦笑を浮かべた。自分自身、魔王という立場になったばかりで王として素人であるという認識なのだ。
「まぁ、それでも少しばかり鍛えておかないといけないとは思う」
「そうだな。役立たずのままでは困る。スティル」
「はっ」
「第四軍団でこの者達を鍛えろ。反抗的な態度を取るのなら遠慮なく殺せ」
「はっ!!」
スティルの返答に
「よし、それでは立て!! 第四軍団の屯所で訓練を行う」
スティルの言葉に
「さて……今更なんだがそちらの方々は?」
キラトがレティシア達へ視線を向けて言う。
「ああ、ヴェルティアの妹君とその専属侍女、護衛の方々だ」
シルヴィスがそう返答するのを見て、レティシア一行がキラトに恭しく一礼する。
「初めて御意を得ます。私の名はアインゼス竜皇国第二皇女、レティシア=アリル=アインゼスと申します。これらは私の専属侍女であるヴィリス=アーマイス、護衛のラルスン家のシーラ、サーシャ、カイ、レイでございます」
「私はキラト=テレスディア、当代の魔王として魔族を率いている」
「はい。お会いすることができて光栄でございます」
「ヴェルティアさんの妹君であるならば遠慮はいらないよ。ゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
キラトの言葉にレティシアは嬉しそうに礼をいう。ヴィリス達もキラトの友好的な態度にホッと胸を撫で下ろしたようである。
「それにしても異世界からやってくるくらいだ。よほどの事態があったのかな?」
「はい。竜皇国の未来のためにどうしても私はこの世界にこなければなりませんでした」
レティシアの返答にキラトの表情が固くなる。キラトはヴェルティアがいなければ対処できないほどの未曾有の事態が竜皇国に起きていると考えたのだ。
「それは一体……」
「しかし、それは杞憂に終わりました」
「杞憂? もう解決したということかな?」
「はい。私としたことが見誤っていました」
「……ん?ということはこの世界に来て安心したということかね?」
「はい。私たちがここに来た理由ですが……お姉様とお義兄様の仲が婚前旅行までするまでになっていたとは思っても見ませんでした」
レティシアの言葉に大いに狼狽えたのはもちろんシルヴィスとヴェルティアであった。
「ちょっと待ってください!! 私とシルヴィスは
「そ、そうです!! レティシア皇女はどう考えても
顔を赤くして渦中の二人が必死に否定するが、こういう話題は本人が否定すればするほど周囲には違った認識を持つものだ。
それに二人ともかなり決定的な発言を互いにしているのだが、その事に動揺しているため気づいていない。
(全く……あそこまで他者の思考を読むことに長けているのに、自分のことになるとここまでポンコツになるなんてな)
キラトは二人のポンコツっぷりについ笑ってしまう。
「レティシア殿、婚前旅行というのは明らかに先走りすぎだ」
キラトは重々しく言う。もちろん演技でありそのことをレティシアも察していた。対してシルヴィスとヴェルティアはキラトの言葉にやや安心したような表情を浮かべた。
「そうでしょうか? 実際に私たちがこの世界に来たとき、お二人は愛を確かめておられるように見えました」
「ちょっと待とう!! そんなことしてないからね!!」
「ほう、そこまで進んでいたか……婚前旅行というのもあながち間違いではなかったかもしれん」
「はい。だからこそ我がアインゼス竜皇国の閉ざされた未来が杞憂となったわけです」
シルヴィスの否定の言葉をキラトもレティシアもさりげなく無視した。
「そうか、アインゼス竜皇国の危機とはヴェルティアさんの結婚か」
「その通りです」
「ちょ、ちょっと待ってください!! 何で私に婚約者のいないことがうちの国家的危機になるんですか!!」
「それは確かに……国家的危機だな」
ヴェルティアの抗議は当たり前のように無視された。
「はい。そのため、私がいかに竜皇国の危機かをお義兄様へ伝えることで、慈悲に縋ろうとしたのです。しかし……」
「二人は既に婚前旅行であったということか……」
「その通りです」
レティシアの言葉にキラトもうんうんと納得したかのように頷いている。
「おい!! ちょっと待て!! 俺が何のために
シルヴィスの抗議はまたしてもキラトとレティシアは無視した。
「どうやら、魔族は神族との戦いに臨まれるとのこと……決着がつかない限り、お姉様、お義兄様は戻られないと思います。そこで微力ながらこのレティシアも協力させていtだきます」
「ああ、よろしく頼む!!」
「はい!!」
キラトとレティシアは互いに手をがっしりと掴んでニヤリと笑った。
その笑いは事態を楽しんでいるようにしか見えない。
シルヴィスとヴェルティアは二人の様子にげっそりとした表情を浮かべた。
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