第169話 来訪者④

「な、なんだ!?あなた達は!!」


 シルヴィスが踏み込んできた男達に向けて叫ぶ。シルヴィスの反応は男達にとって想定したものであったのだろう。ニヤニヤといやらしい嗤みが浮かんでいた。


「いい女連れてるじゃないか」

「それだけの女だ。お前一人で楽しもうなんて許されないよなぁ」


 男達の言葉にシルヴィスの不快指数は跳ね上がった。ヴェルティアも同様であり少しばかり殴りつけてやろうかという意思を発した。


「さっさと出て行かないと!!」


 シルヴィスが魔術を展開しようとしたところで男がシルヴィスの間合いに踏み込むと腹部に拳を入れる。

 もちろんシルヴィスとヴェルティアから見れば首をへし折ってやろうと言う気持ちを抑えるのに大きな苦労を強いられるほど鈍すぎる動きであった。


 ドコ!!


 男のニヤリとした表情を浮かべた。もちろんシルヴィスにとって何の痛痒を与えることはできなかったが、なんのダメージも受けてないという状況だと差し支えがあると判断してその場に蹲った。


「なぁ、出て行かないとどうなるんだよ?」


 男の顔に拳をめり込ませることを必死に我慢しているシルヴィスを煽るような言葉である。

 うずくまるシルヴィスの頭を踏みつけた男にヴェルティアが殴りつけようとしたところにシルヴィスが視線で制した。それを見たヴェルティアが唇を噛み締めた。


「け、クズが」


 男は罵りながらシルヴィスの頭を蹴り付けた。


「おい、この女の味見といこうぜ」

「そうだな」


 男達が下卑た嗤みを浮かべながらヴェルティアに近づいていく。


「おい、ヴェルティアに触んな」


 シルヴィスの言葉に頭を踏みつけていた男の表情がさらに歪んだ笑みを浮かべた。


「クズが調子に乗んな。おい、その女をこいつの前で輪姦してやれ!!」

「ああ、それも楽しそうだ」

「へへへ、いい女だなぁ〜いい声で喘がせてやるぜ」


 ブチッ!!


 男達の言葉にシルヴィスの中で何かがキレる音が聞こえた。


 そしてほぼ同時に再び男がシルヴィスの頭を蹴り付けた。


 ブチィ!!


 その姿を見た時ヴェルティアの中でもキレる音が聞こえた。


 ヴェルティアは男の顔面に拳をめり込ませた。そしてほぼ同時にシルヴィスもヴェルティアに近づこうとした男の顔面に拳をめり込ませた。


 ドドゴゴォォォ!!!!


 ほぼ同時に二人の男が吹き飛ぶと壁にめり込む。


 壁にめり込んだ男はもちろん動かない。人間の身体は壁にめり込むほどの拳の一撃を受けて命を失わないほどの強さはないから当然であった。


「なんか……お前ら気にいらねぇんだよ!!」

「ひ……」


 シルヴィスは無造作に男の一人の足首を掴むとそのまま握りつぶした。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 足首を握りつぶされた男の絶叫が響く。シルヴィスは男の絶叫を無視して振り回した。


 当然、振り回された男は壁にぶつかっていく。


「ぎゃーぎゃー騒ぐな!!」


 シルヴィスがさらに速度を上げて床に叩きつけた。男の体が床にめり込んでしまった。


「ひぃ、て、てめぇ!! こ、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ!!」


 男がシルヴィスに言い放つが、それはガチガチと歯を鳴らしながらのものであり、威嚇ではなく命乞いでしかない。


「タダで済まないのはお前だよ。お前らごときがヴェルティアを輪姦まわす? どこまで調子に乗ってんだよ」


 シルヴィスの言葉には明確な怒りがある。


「いくら演技とはいえシルヴィスの頭を踏みつけるなんて腹が立ちますねぇ」


 ヴェルティアも 明確な怒りを発しており男の恐怖はさらにガタガタと震え出した。


 ガシっとシルヴィスは男の顔面を掴むとそのまま壁に叩きつけた。壁に叩きつけられた男はそのまま壁を突き破り上半身が外側に飛び出している。もちろん男は既に絶命していた。


「……」

「……」


 男達四人が動かなくなったのを見てシルヴィスとヴェルティアは数秒無言であった。


 そして、同時に二人とも頭を抱えて蹲った。


「やってしまった……」

「う〜ん、おかしいです!! 私がこんな……力加減を間違えるなんておかしいです!!」


 シルヴィスとヴェルティアは互いに落ち込んだ。ほんの一、二分で先ほど耐えるという宣言を破ってしまったなど恥ずかしいことこの上ない。


「シルヴィス……すみません。私としたことが……あんな連中にシルヴィスが踏みつけにされたと思うとどうしても我慢できませんでした」

「いや、俺もお前を……その輪姦まわすなんて言われて……つい頭に血が昇ってしまって……」


 シルヴィスとヴェルティアが互いに謝る。謝罪の言葉と同時に二人が耐えきれなかった理由が互いの好意が根幹にあることを示していることに間を空けずに互いに気づいた。


「あ、その……」

「えっと……その……」


 二人の頬は少しずつであるが確実に赤くなっていく。


「「あの!!」」


 しばしの沈黙の後に互いに声をかける。このような時に二の句が告げなくなってしまうのは誰でも同じである。


「な、何ですか?」

「いや、そっちこそ何だ?」

「シルヴィスから言ってくださいよ」

「いや、そっちからで良いよ」

「いえ、シルヴィスから言ってください!!」

「わ、わかった。あのなヴェルティア」

「は、はい!!」


 二人の顔はもはや完全に赤くなっており、誰が見ても互いに意識しているのが丸わかりというものだ。そして、シルヴィスが意を決したように口を開いた。


 その時である。


 シュパァァァァ!!


 空間が切り裂かれ、そこからひょこっと一人の少女が姿を見せた。その少女は長いおさげをした美少女であり、ヴェルティアと似た服装をしている。その少女が現れてすぐにメイド服に身を包んだ少女と四人の剣士達が姿を見せた。


「え?」

「へ? レティシア?」


 二人はあまりにも予想外のことに驚きを隠せない。シルヴィスは見知らぬ少女が、ヴェルティアにしてみれば可愛い妹が空間を切り裂いて登場したのだから驚くなという方が難しいだろう。


「え……あ〜あらら」


 一方で二人の様子を見たレティシア達は自分がものすごく間の悪い事をしたことを悟ると一礼すると、レティシア達はトコトコと扉のところに歩いていく。その様子をシルヴィスとヴェルティアは黙って見ていた。


「失礼しました!! 続きをどうぞ!!」


 そう言って扉を閉めようとしたレティシアをヴェルティアが慌てて止めた。


「待ってください!! 何を勘違いしてるんですか!!」


 ヴェルティアの慌てた声が響いた。

 

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