第130話 再会⑤

「さて、急いで出発ですね」

「ああ、全くヒヤヒヤしたよ」


 ディアーネとユリが馬車の中に乗り込み出発するとふーっと息を吐き出した。


「まぁ上手くいったし良しとしましょうよ」


 シルヴィスは悪びれずに言う。自身の論法が穴だらけであることをシルヴィス自身が知っていたのだ。

 だが、ルキナの死を伝え、その死にエルガルド帝国が関係していることを匂わせたこと、エルガルド帝国に皇族の死に魔族ではなく何者かの干渉があることをエルガルド帝国側に伝えることは、天界への不信感を抱かせる第一歩としては意味があることであったのだ。


「それなんですけど、まさかエルガルド帝国の皇族を殺したのは、やっぱり神様達なんですかね?」

「まぁ普通に考えれば天界がやったと考えるべきだな。次点でラフィーヌが権力を奪うために家族を殺したというところだな」

「そのラフィーヌさんという方はどんな方なんですか?」


 ヴェルティアの問いかけにシルヴィスは少し考え込んだ。


「うん、一言で言えば嫌なやつだな」

「嫌なやつ……ですか?」

「ああ、なんというかとにかく傲慢さが鼻につくやつだ。神に選ばれたとでも思ってるんだろ」

「神と言ってもピンキリですよね」

「ああ、あんな八戦神クズとかを見ると神というだけでありがたがる連中の知性が哀れに思えてくる」

「そうですねぇ〜それに対して強くないですしね。まぁ別格のシオルさんとかシュレンさんとかいますけどね」


 シオルの名が出た時にシルヴィスの表情が少し不快なものになった。


「あれれ。シルヴィスはまだシオルさんの事にこだわってるんですか?」

「ああ、自分でも不思議なんだけどな」

「でも、あれはキラトさんも言ってましたけど正当な決闘だったというわけですから、暗殺じゃないですよ」

「う〜ん……頭ではわかってるんだけどな」

「本当に不思議ですね。そこまでこだわるのは何らかの理由があるはずなんですよね」


 ヴェルティアはそう言って首を傾げていた。


「とりあえずその話は置いておこう」

「ですね!! 考えても仕方ない事は考えても仕方ないですよね!!」

「まぁな。話を戻すぞ。問題は神が皇族の殺害の実行犯を俺という事にしてるわけだ」

「そうですね。そんなことをキューラーさんも言ってましたね。救世主っていわゆる異世界から召喚された人たちのことですよね?」

「ああ、その中の一人で行動を共にしてないのは俺だけだからな」

「でも、キューラーさんはシルヴィスに会ったのに気づきませんでしたよ? 私もシルヴィスの名前を出しましたしたけど……」

「まぁ、堂々と特使として会いに来るなんて思わないからな」

「あ〜それは確かにそうですね。普通は特使に任命されてしかも悪びれずに現れるなんて思いませんものね」

「それに開戦の可能性を匂わせていたからな。どうやってそれを回避するかを考えていたんじゃないかな」

「そう考えるとキューラーさんも不運でしたね」

「ああ、優秀さを発揮することができなかったのは可哀想だが、仕方ないさ」


 シルヴィスの意見にヴェルティアも頷いた。


「お話中申し訳ありません。よろしいでしょうか?」


 そこにディアーネが声をかけてくる。ディアーネもユリも基本、シルヴィスとヴェルティアの話の途中で割り込むような事はしないのだが、それゆえにシルヴィスもヴェルティアもディアーネを咎めるような事はしない。というよりも二人ともディアーネとユリのことを仲間と思っているために咎めるようなことは決してない。


「どうしたんですか? 私の光る知性を頼りたくなったんですね!! わかりました。さぁ、このヴェルティアがディアーネの疑問にしかと答えて見せましょう!!」

「いえ、答えていただきたいのはシルヴィス様なんです」

「え〜」


 ディアーネのつれない返答にヴェルティアはわかりやすく不満の声を上げたが、ディアーネはさりげなく無視した。


「キューラー侯はシルヴィス様のことを知らなかったから、まさかということで疑っても言葉にしませんでしたが、ラフィーヌはシルヴィス様と面識があるんですよね?」

「そうですね。確かにやつは俺に物凄い敵意を向けてくるでしょうね」

「いきなり戦闘という事になりかねませんよ」

「その可能性はありますけどそれはそれで構わないですよ」

「何故です?」

「キラトは俺達に開戦期間を遅らせてくれと言ってましたよね」

「はい」

「それに戦争も辞さないと言ってました。という事はキラトが厄介と考えてるのは、天界とエルガルド帝国が一緒になって魔族と戦う事です。開戦時期をずらしてくれると良いというのは各個撃破できるようにしてほしいという事でしょう。少なくとも俺はそう判断しました」

「なるほど……ラフィーヌがシルヴィス様を糾弾して危害を加えようとしてくれればシルヴィス様なら当然反撃しますよね」

「もちろんです。そうすればエルガルド帝国は大きな損害を被るような事になるでしょうからそれで戦争の準備には時間がかかります。それでキラトの依頼は完了です」


 シルヴィスの言葉にディアーネは頷いた。


「そっか、シルヴィス様はそう考えてるんだ。でもさ、それならエルガルド帝国を直接攻撃したほうが早くないかな?」


 そこにユリが首を傾げながら言う。シルヴィスの実力ならば十分可能であると考えたのだ。


「ええ、確かにそうなんですけど……最近ちょっとあの連中に同情してるんですよ」

「同情?」

「ええ、自分達を最も虐げている神達を崇めきってる惨めすぎる連中に同情してます」


 シルヴィスの言葉にはエルガルド帝国の者達に対する軽蔑・・の念に満ちている。


「だから少しばかり啓蒙してみようかなと思ってます。そうすればひょっとしたら神に噛み付かせることができるかも知れませんからね」

「う〜ん、そう上手くいきますかね?」

「いかなくてもいいんですよ。時間を稼ぐ、神への不信感を持たせる。あの三人の実力を把握するということができれば十分です」

「なるほどね。わかったよ。私達も頑張るよ」

「頼りにしてますよ。……ん?」


 ユリの言葉にシルヴィスが顔を綻ばせたところで、ヴェルティアがいじけてるのが目に入った。どうやらディアーネにさりげなく無視されたのでいじけてしまったらしい。


「どうした?」

「……ふ〜んだ」

「いじけるなよ」

「いじけてなんかいませんよ〜」

「おいおい、ラフィーヌとの会見はお前が主でやってもらおうと思ってるんだぞ』

「え?」

「お前の交渉術ネゴシエイトの出番だぞ」

「お〜いいでしょう!!このヴェルティアに任せてください!!」

「頼りにしてるぞ。盤面をひっくり返せ!!」

「任せてください!! はっはっはっ!!」


 ヴェルティアはすっかり機嫌を直し得意満面の笑みを浮かべた。


(ラフィーヌのようなやつにはヴェルティアのようなタイプが最もやりにくいだろうしな)


 シルヴィスはヴェルティアの爆走がラフィーヌを翻弄する様を予想してニヤリと嗤った。

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