第117話 暗躍⑭
「さ〜て、やるとしますか!! さぁソールさん、決着をつけるとしましょう!!」
ヴェルティアの宣戦布告にソールの表情が凍りついた。
「待ってくれ」
そこにキラトがヴェルティアを制止する。
「どうしたんですか?」
「すまないが、ここは俺達に譲ってくれないか?」
「いいですよ」
キラトの言葉にヴェルティアは即答する。キラトは一瞬呆気に取られかけたが、ヴェルティアの言葉を素直に受けることにした。
ヴェルティアは思い込んだら即行動という爆走娘という印象が強いが、それはヴェルティアの一面に過ぎない。こと戦いに関することにおいては心の機微を読むのが抜群にうまいのだ。
「それでは キラトさん達はソールさんをやってください。我々は他の連中を始末します」
「ああ、恩に切るよ。シルヴィスもいいか?」
「もちろんだ。あいつはお前の仲間を殺したんだからな。落とし前をつけたいという気持ちはわかる」
「嬉しいことを言ってくれるな」
キラトはニヤリと嗤うとソールに向けて殺気を放った。
「く……」
ソールは剣を構えキラトへと対峙する。現段階で
「当然だが……一対一はしない」
キラトの言葉にソールはギクリとしたした表情を浮かべた。ソールが勝つ、いや正確には生き残るにはキラトと一騎討ちするのがまだ生き残る可能性がある。
「なぜならお前達は武将でも戦士でもない。ただの暗殺者にすぎないからだ。暗殺家業などやるような生き方をしている以上、名誉とは無縁であることぐらいの覚悟はしていただろう? ならばその生き方に殉ずるのだな」
キラトは言い終わると同時にソールへと斬りかかる。キラトの踏み込みはシルヴィスやヴェルティアと遜色ないものだ。
「く……」
キィィィィ!!
金属を擦り合わせる高い音が発せられてキラトとソールの戦いが始まった。
「リューべ、いくわよ!!」
「はい!!」
リネアの言葉にリューべは背から大剣を抜き放つと駆け出していく。もちろん、目的はソールだ。
キラトとソールは激しい剣戟の真っ最中である。だが、キラトが明らかにソールを押し始めていた。そこにリューべという強者がソールへと攻撃を開始したのだから戦況は一気にキラト達へと傾くのは当然であろう。
「はぁぁ!!」
裂帛の気合と共にリューべの大剣が振り下ろされた。
シュン……ゴガァ!!
振り下ろされたリューべの大剣をかろうじてソールは躱す。しかし、その剣圧が地面を大きく切り裂いた。凄まじい威力にソールはゾクリとした感覚を覚えた。
しかし、その感覚から立て直すほどの時間は与えられなかった。キラトが斬撃を繰り出してきたからだ。キラトとリューべの連携は自由に斬撃を繰り出しながらも互いに当たるようなことはない。
キラトもリューべも互いの呼吸を合わせて戦うことなど造作もない実力の持ち主であるし、長く共に戦ってきたこともあり、いきもピッタリあっているのである。
しかし、ソールの相手はそれだけではなかった。リネアが要所要所で矢を射かけてくるのである。恐ろしいことにリネアの放つ矢はキラトとリューべの間をすり抜けてソールを攻撃してきているのである。
(く……まずい。矢の対処でどうしても二人の斬撃の対処に一手遅れてしまう)
ソールの焦りは一瞬ごとに大きくなっていく。キラトとリューべの斬撃に対処するだけで精一杯であるというのにリネアの放つ矢に対処するというのは困難極まりないというものだ。
(何をしている!? たす……)
ソールは部下達を見やる。自分が追い込まれているというのに何の動きも見せない部下達に苛立ちを持つのは当然であった。
特にミルケンと同等の実力を持つアミュレスが助けに入らないことは怒り狂いそうになった。アミュレスならばリューべと互角の戦いを展開しソールの負担を減らしてくれるという思いがあったからだ。
しかし、ソールは次の瞬間に部下達を襲う悲劇を目の当たりにした。シルヴィス、ベルティア、ユリが部下達を次々と血祭りに上げていたのだ。
「いきますよ!!」
ヴェルティアの拳が黒装束の顔面を捉えるとそのまま吹き飛び、岩禅による巨石にぶち当たると粉々になっているという光景が展開されていたのだ。
ユリもまたほとんど斬り結ぶことなく部下達を切り伏せており、舞うという表現そのままな剣舞により部下達は次々と絶命していた。
アミュレスはシルヴィスと相対し、剣を振り上げた瞬間にシルヴィスに懐に入られるとそのまま腹部に強烈な一撃をもらい。体をくの字に曲げたところをシルヴィスが喉を掴んだ瞬間に肘を延髄へと落とす。
ギョギィィィ!!
ありえない音と共にアミュレスの首が異様な角度へと曲がりそのまま崩れ落ちる。ピクリとも動かないところを見るとアミュレスは既に絶命しているのだろう。
「くそがぁぁぁぁぁぁあ!!」
部下達の全滅を確信したソールは咆哮しリューべへと突進した。もはや大勢は決したことを察したのだ。降伏を受け入れられることは決してないという確信のもと、せめてリューべだけでも討ち取るつもりであったのだ。
破れかぶれの攻撃であり、キラトがすれ違いざまにソールの脇腹を斬り裂いた。
「が……」
ソールの口から苦痛の声が発せられたがそれは動きが止まる事を意味したものではない。ソールはそのままリューべへと斬撃を放つ。
ソールの斬撃がリューべの頭部に到達するよりも早くリューべの大剣がソールの胸部を刺し貫いた。
しかし、ここでソールは思わぬ行動に出る。ソールはそのまま突っ込むとリューべの両腕を掴んだのだ。
「せめて……貴様だけでも!!」
ソールの執念というべき言葉であった。ソールの絞り出すような言葉が終わると同時に魔力の集中を全員が感じた。
『自爆』
この言葉が浮かぶよりも早くキラトが動く。リューべを掴む両手をキラトが斬り落とすとリューべが大剣を掲げた。胸部を貫かれていたソールも同時に掲げられたところにリネアの放った矢が眉間、喉、心臓を穿つ。
「が……」
ソールの目から焦点が消える。
「終わりだ」
リューべは静かに言い放つと大剣からソールの体を引き抜くと地面に落ちる前にソールの首を斬り飛ばした。
ドシャッ……
ソールの斬り飛ばされた首と胴体が地面に落ちた音が戦いを締め括った。
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