第19話 タバコの煙は煙幕に使える()

メリークリスマス、ハッピーニューイヤー。

2022年もよろしくお願いします。


……………………………………………………………


「あいつは……!」


「ここの制服をして…知ってるんですか?」


七川は俺を信じられないとでも言いたげな表情で見てくる。

失礼な。俺も人の顔くらい覚えてるわ。


「さっき会った。だが、そん時は怪人の気配なんて……ッ!」


危機を察知ししゃがむ。俺の頭があったところには束ねなれた髪の毛が通り抜けていた。


「あっぶね…つーか硬ぇな、こんなことも出来んのか。」


ノックをするように髪の束を叩くと、コンコンといった音と感触がかえってくる。


「硬質化……でしょうかね。」


「あ?皇室化?」


「硬質化です。皇室化は小室圭でしょう。」


「あ知ってんのね、小室圭エレン・イェーガー説。」


「まぁ…そうですね、人並みには。」


「と、話が脱線したな。まぁ所詮相手は髪だ、燃やせばなんとかなる。」


「ちょっと、あっちには人質がいるんですよ!?」


「分かってるっつの、まずは人質救助だな。」


「分かってるのならいいですけど……出来るんですか?」


「その心は?」


「あの高さですし、何より人質がいるところは怪人の領域テリトリーですよ?普通の人には無理です。」


「普通の人には無理って…そりゃお前が普通じゃないっていうことかい?」


「ッ…そ、それは……」


ふふふ、悩んでおる悩んでおる。

守秘義務を守るか現状を優先し俺に打ち明けるか。

まぁ俺は七川が魔法少女ってことは知ってっからその悩みは無駄なんだけどな。


「まぁ見てろって。教師の底力ってやつをよ。」


そう言って俺はタバコを咥え、火を着ける。

今の俺ちょっとかっこよかったな。うん。

この小説を見ているやつ全員「やだ…イケメン…(トゥンク)」ってなってるに違いない。


「教師の底力って……無茶です!早く逃げ…」


煙を吸い、吐く。

ぶあっと一気に広がる煙。それはさながら煙幕の様。

とにかく、一呼吸で出す煙の量ではない。


「これは……けほっけほっ」


「息止めるか離れろ、仮にもタバコの煙だ。」


タバコを口から離し、トントンと叩いて灰を落とす。

またタバコを口に持っていき、吸い、吐く。

さらに広がる煙。


3回目程で煙は完全に中庭をすっぽりと覆ってしまった。

これで救助する際怪ギャルに阻止されずに済むだろう。


「さて、PTAとマスコミに騒がれる前に……」


ここで少し溜める。名言っぽく言葉を発する時のポイントだ。


「お片付けといきますか。」


……………………………………………………………


思えば、報われない人生だった。


野球も、どれだけ練習してもスタメンどころかベンチにも入れず、受験だって沢山頑張っても結局落ちて。

それどころか、特に何の努力もしていないのにも関わらずスポーツも、勉強も勝ち組のような人生を送る兄貴がいて。

毎回その兄貴と比べられて。


挙げ句の果てには怪人に飲み込まれてしまった。


「クソッ……俺が何をしたって言うんだよ……!」


そんなことを言っても返事は無く、真っ暗闇の空間に声がこだまする。


しかし、本当に暗い。

暗くて、飲み込まれそうで、助けも無くて……


こんなの……


「俺の人生みたいだな…」


酸素が不足しているのか、意識が朦朧としてきた。

ああ、死ぬのか俺。


そう半ば諦めたように目を瞑ろうとした、その時


急に光が差し込んできた。


何事かと明るさに眩んだ目を開けると、


「おう、良かったな。お前の人生明るくなったぞ。」


いつものようにタバコを咥えた、男がいた。

その男はひょうひょうとした態度でこんなことを言い放った。


「《この暗闇はまるで自分の人生》って……なんかポエマーだな(笑)」


と。


……………………………………………………………


「うし、んじゃその暗闇の人生から引っ張り上げてやっから手出せ。」


そう言いつつ、髪の毛で作られた繭のようなものからポエマー生徒を引っ張り出す。


「はぁ……助かりました、灰島先生。ゲホッ…なんか煙いし、タバコ臭いんですが。」


「いいってことよ、ポエマー君。この煙は煙幕代わりだ、お察しの通りタバコの煙なんであんま吸わないよーに。」


「…本当に教師とは思えないですね。」


「なに、今更だろ。じゃあ行きましょー」


ポエマー君を小脇に抱え、七川のところに戻る。


「ふぅー、これであらかた回収出来た…か。」


唯一残されているのはナノだけだ。

かなり探したが、気配を探り取れなかった。

もしかしたら髪の毛に探知阻害的なバフが掛かっているのだろうか?


……可能性は無きにしも非ずだな。硬質化よろしく、色んな材質に変化出来るようだからそう言うのに変化しててもなんらおかしくは無い。


と、考えていると、


「……先生。」


七川がゆらりと近づいて来る。


「ん?どうした?」


「どうしたもこうしたもありません!なんですかさっきの動き!急に壁の方に走ったかと思えば壁を蹴って登り、人質が囚われている場所に飛ぶなんて……とても人間技じゃありません!」


「そんな慌てんなって、先生マジックだよ。先生マジック。」


煙幕で見えていないと思っていたが、どうやら見えていた様だ。


「先生マジックって……もしかして…魔法じゃないですか?」


「はは、まさか。魔法は女子にしか、しかもほんの限られた人達にしか使えんだろう。」


「う…それは、そうですけど……じゃあ!どうやったんですか!?」


「まぁまぁ、考え過ぎると腹が減るぞ?」


「先生、俺にも教えてください。」


「わ、私も知りたい!」


「うんうん、あの動きはどう考えても人間じゃない。」


「そうだそうだ」


回収した生徒が騒ぎ始める。ちくしょう、余計なことしやがって。助けなきゃ良かったぜ。


「ええい、やかましい!散れ散れ!」


「「「ブーブー」」」


「ともかく!俺の役目は終わった。次はお前の番だ。」


そう言って七川の背中を叩く。


「え?」


「え?じゃねえ。さっきまでの口振り、いかにも怪人に対抗するすべがありますと言わんばかりだったぞ?」


「う…まぁ、ありますけども。」


「やっぱりな、んじゃ頼むわ。」


「い、いやでも……」


「ん?なんや、あるんやろ?はよ。」


ふ、我ながら性格の悪いこと言うなー。だよな、人前で変身は出来ひんもんなぁ。

しゃぁない、助け舟?でも出すか。


「あ、そういやお前がアレだってことは知ってっから、遠慮なくやれよ。」


「は?」


「ん?」


「いや…何が、ですか。」


少し声が上ずっている。なんか面白い。


「だから、これよ。」


ポケットからキーホルダーを取り出し、指にかけて前に出す。さながら印籠。


「それ、は……」


そのキーホルダーは魔法少女の使う武器の形を模したもの。

組織に捕まった時に黒いやつから貰った。いらねぇ。

ちなみにそのキーホルダーの形は、"灼熱"のナナが使うロッドだ。

これで俺の伝えたい事は分かるだろう。


「……分かりました。先生は生徒を逃がしてください。」


「うし、行ってこい。」


ナノの救出がまだだが……まあなんとかなるっしょ!


七川はポケットから俺のものより精巧に作られたロッドを取り出し、上に掲げ、言う。




「変身!」


……………………………………………………………


危うく失踪するところだった。危ない。


寒くなってきましたね、風邪をひかないように暖かくして下さいね。


最近失踪気味ですが、いつかは更新するので……気長にお待ちください。


それでは、また。

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