第63話 タマコvsラン(3)
スキル:
その名は
――
2か所だけだった同時変化を、頭、胴体、左腕、右腕、左足、右足の全箇所を同時変化できる。
そして――
***
スキルの最大開放をしたランだったが、一見するとその見た目は変わっていない。
だが、闘気がまるで違う。
先ほどまでの少女の面影はどこにもなく、今や歴戦の戦士のような逞しさを感じるほどであった。
「――行くッスよ」
ランは自分の両足を瞬足のフェンリル・キッドへと変化させた。
(変化できるのは2か所が限度。両足を変化させたのなら、もう他は変えられない……が――)
タマコはランから目を離さず考える。
そしてランの姿勢が一瞬前傾になったのを確認――
「――くらえ」
気付くとランは一瞬で背後に回り込んでいた。
そして腕はキング・オーガに変化している。
「――そりゃ、何も変わっていないわけないじゃろうな」
だがタマコも対策は練っている。
スキルの最大解放という未知なる脅威に対し、
「
タマコは背後に音の壁を発動。
これは
今までのランの攻撃なら防げるはず――そのはずだった。
「――悪いッスけど、今までの自分じゃないんスよッッ!」
構わず変化させた腕で音の壁を殴りつける。
そして、いとも簡単にそれを破壊してしまったのだ。
「なにっ!?」
キング・オーガの巨拳がタマコに迫る。
しかし、ギリギリで反応したタマコは
なんとか拳を避けることには成功した。
だが空を切った拳は、その拳圧だけで10メートル以上離れた木々をなぎ倒していく。
「……やっぱり一筋縄じゃいかないッスね」
「こんなところで――終わらんよ!」
タマコはすぐさま反撃する。
「
カウンターは完璧に決まり、音の弾丸がランのボディに直撃する。
しかし、当たる寸前にランは胴体を変化させていた。
「それはもう見切ったッスよ!」
変化させたのはスライムだ。
先ほどと同様、スライムの柔軟性で音を無効化した。
「なっ!?」
驚くタマコだが、ランの猛追は止まらない。
両足をコカトリスの足に変化させると、タマコの肩をがっしりと掴んだ。
「もらったぁあああああッッ!!!」
ランはニヤリと笑い、そのまま鬼の巨拳をタマコの頭上から炸裂させた。
地面に大きくクレーターを作り、タマコはなすすべなく地面に叩きつけられる。
「がはっ!」
咄嗟のことで受け身を取り損ね、ダメージを諸に受ける。
思わず吐血すると、肩で息をし始めた。
漸く見せたタマコの隙を逃さず、ランは止めを刺そうと近づく。
「これで、自分の勝――」
絶好の機会だった。
だが、ランは変身を解除し、一度距離を取る。
「~~~~っぐぁ、ああああ゛あ゛!」
突然頭を押さえて苦しみだすと、その場でうずくまってしまった。
タマコは不思議に思うものの、ここは回復に専念。
息を整え、何とか立ち上がると、同じタイミングでランも起き上がった。
「なんじゃ……随分と苦しそうじゃないか……」
「そっちも同じじゃないッスか……」
「……全く、こんな隠し玉があるなら、さっさと使えばいいものを……人が悪いのぉ……」
息を切らしながら、それでも強者の余裕を崩さず挑発した。
だが、ランはとても冷静だ。
「
けれど、
ランは自分のスキルを説明した。
正確に言うと、
キング・オーガの攻撃力は約1000。つまり攻撃力1000をランのステータスに加えることが出来るのだ。
だが
加えて変化させたモンスターの攻撃力、防御力、スピードのいずれか一つを2倍にしてステータスに加算。
つまりキング・オーガの攻撃力1000×2の2000が攻撃力として加算されるのである。
だが大きな力には、それなりのリスクもあった。
「
この能力を簡単に説明するなら、自身を
色々なモンスターを組み合わせたモンスターになるため、使うと精神がおかしくなるのである。
したがって、ランが動けるのは――
「
もう猶予は無い。
ランは刺し違えてでもタマコを倒すことを決めた。
「そうか……やれるものなら、やってみろ!」
だが、タマコも魔王としてのプライドがある。
そう簡単に
「いくッスよ!」
「来い!」
ランは両足をフェンリル・キッドに変化。
フェンリル・キッドの速度×2がランの速度に加算。
高速で移動するランに、タマコも
タマコが刀で斬りつけるが、ランは右腕をファイアーマンティスに変えて受け止めた。
だがこれでは終わらず、ランは左腕をアナザーコカトリスへと変化させ、巨大な爪でタマコの胴体を鷲掴みにした。
「捕まえたッス!」
「効かぬわッッ!」
タマコは黒弦刀を
ランの変化した左腕を切断した。
「うぐっ!」
ダメージにより左腕は元の腕へと解除される。
左腕に痛みはあるものの、ヘンシンした腕を斬られても元の腕が切断されるわけではないため、時間が経てばまた戦えるが、今の状況では、もう左腕は使い物にならないだろう。
ランがまた不利になったが、それでもランの闘志は消えてはいなかった。
「凄いっすね! さっきのコカトリスの毒効いてないんスか!?」
「魔王はその程度の毒で殺せんよ!」
最初に一撃を入れたコカトリスと、胴を握りしめたときのアナザーコカトリスの毒で、常人なら既に息絶えていてもおかしくはない。
しかし、タマコとて魔王。
モンスター界の頂点はこれしきでは倒せないのである。
超高速戦闘はまだ続いていく。
互いが互いの持てるスピード、パワーで全力で戦っていた。
だが、どんな戦いにも終わりは来る。
「――っぐ!」
ランの頭にズキンッと痛みが走る。
それは先ほどよりも強烈に頭を貫き、視界は赤く染まりかけていた。
(もう時間が!?)
最大解放発動から現在9分50秒。
そろそろ限界が見え始めていた。
(ダメっス……こんなところで――)
――残り時間10秒――
視界の端で青い龍が一人の人間と戦うのが見える。
早く決着を付けようとラッシュを続ける。
(ジー君がまだ戦ってるのに――)
――残り3秒――
(こんなところで――)
――2秒――
(まだ――)
――1――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます