第62話 タマコvsラン(2)
ランは自分の敗北を悟った。
決してランは弱くない。
仮にアキラと戦ったとしても、実力は五分五分。魔王たちとも対等以上にやりあえる実力はあった。
しかし、今回は相性が悪かった。
ランはスキルにより様々なモンスターの力を使うことができるが、あくまでも変身できるのは『見たことのあるモンスター』のみ。
ランは音に耐性のあるモンスターにほとんど出会ったことが無く、タマコに対応できるのは皆無と言ってもいいほどだ。
敗因を言うのであれば、この戦いはランの"経験の浅さ"にあるだろう。
(ごめんジー君……)
ランがサレンダーを宣言する――その直前、突如として天を裂くような雄叫びが周囲の空気を激しく叩いた。
ランが顔を上げると、そこに居たのは"青い龍"
地上を見下ろすその眼に、タマコは一瞬だけ委縮した。
「なんじゃ、あれは……」
目を見張り息を呑む。
感じるのは背筋が凍るような殺気。
常人なら人睨みで失神するか、心臓の弱い者なら死ぬだろう。
そんな状況だというのに、ランは酷く冷静だった。
「そっか……使ったんスね……」
思い出されるのは魔剣争奪戦が始まる前にジードが言っていた
実際に目の当たりにするのは初めてだ。
天に佇む龍から放たれた凄まじき威圧に木々が枯れていく。
その様子からもジードが自我を保っているとは思えなかった。
「ジー君――」
自分が止めなければ、と一歩ずつジードへと近づく――が、しかし!
「コロシテヤル……コロシテヤルゾォオ゛オ゛!!!」
暴走しているジードは口に超特大の雷撃をチャージし始めた。
その威力が想像を絶することは、一目見ただけで明らかだ。
「――逃げろ!」
危険を察知したタマコはランへ避難を促す。
だが、ランはそれでもジードを止めようと叫んだ。
「ジー君、落ち着いて! 力に飲み込まれないでッッ!」
恋人の必死の呼びかけ。
しかしジードが止まることはなかった。
大出力の雷撃は無情にも放たれる。
その攻撃範囲は戦っているタローだけでなく、タマコやランも巻き込むものであった。
「――くっ!」
タマコはランを助けるために駆け出そうとする。
だが、頭に突然よぎってしまった。
(間に合わんか――?)
タローのような馬鹿であれば、何も考えず助けに行っただろう。
なまじ頭がいいばかりに、助けられないことが理解できてしまった。
(ダメ、か――)
タマコが諦めかけた――その瞬間、黒い何かが上空を覆う。
よく見ればそれは、巨大な傘の形に変形した
「――っ! 主殿か!?」
雷撃は
だが衝突した際に起こった激しい突風がタマコとランを襲う。
「――うわっ!?」
戦いのダメージが残っていたランは踏ん張りが効かず吹き飛ばされる。
タマコは黒弦刀を地面に突き刺して何とか耐える。
「――主殿っ! 無事か!?」
突風が止みタローの安否を確認しようと辺りを見回す。
そして目に入ったのは、タローがいると思われる場所を囲む炎の壁だった。
「これは……」
怪訝に見つめていると、後ろからランが戻ってきた。
「……"
ランはその炎を悲しそうに見つめるだけだ。
ジードは自分を殺すように言った。
自分はジードを止めると約束した。
なのに蓋を開けてみれば、止めると言って止められず、殺すにも実力の差がありすぎて殺せもしない。
何もできない自分の無力さが恨めしかった。
だが、同時に決意もしていた。
そして、ジードはタローに勝てないことも悟っていた。
つまりジードは――
「――戦いましょう……」
気付けば自然と口を開いていた。
「ジー君が、
愛する者とどこまでも一緒にいると決めたのだ。
最後まで――最期まで一緒に、だ。
「戦え! 魔王タイラントッッ!」
先ほどまで敗北を受け入れようとしていたラン・イーシンは、もうそこには居なかった。
新たな決意を抱き、ランはもう一度魔王へと立ちはだかる。
「……いいだろう」
タマコはランの覚悟を聞き届け、その願いに応えた。
「来い、冒険者よ!」
「……ありがとう」
ランは微笑を浮かべると、目を閉じて体の前で両腕をクロスした。
息を整えていくと、だんだんと気が高まっていくのを感じた。
そしてそれが最大にまで高まったとき、意を決して発動したのだった。
「最大解放――
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