第22話 強すぎるスズメバチ、蘇るミツバチたち(2)
スズメバチはミツバチを襲う。
ミツバチにとってスズメバチは天敵だった。
だがミツバチはスズメバチを倒す秘策を考えた。
熱殺蜂球
敵に対し数百匹もの数で包み込む。そして筋肉で身体の熱を上げて殺す。
弱者が強者を殺すために考えた、殺すためだけの技。
ワイトは弱い。
だが、そのワイトが10万いたらどうだだろう。
その数で一斉に襲い掛かられたら、強者である冒険者は太刀打ちできるのだろうか?
倒しても倒しても無限に湧き出る弱者に恐怖を抱かず戦い抜けるのだろうか?
その答えは、
では一つだけ問題を出そう。
ミツバチの前にスズメバチが来ました。
ミツバチはいつものように数で殺しに来ます。
ではこのとき、
そのスズメバチが圧倒的な強者であったらどうなるでしょう?
答えは
***
蠢くワイトはタローに狙いを定めた。
突然現れた敵に即座に襲い掛かるワイトたち。
タローは魔剣を棍棒に形状変化させた。
「こんなもんかな」
まずは軽めに横に振るう。
だが爆発的な魔力が放出され、一気に数百のワイトが灰になった。
「これでもダメか……」
さらに力を抜いて放つが先ほどと同様であった。
思い切って力いっぱい振ってみたが、魔力放出+風圧でより強力な一撃になった。
ちなみに今までの攻撃でワイトは1万体倒されている。
(訓練とか苦手なんだよ俺は……あーめんどくせぇな)
そう思った時だった。
その一撃は先ほどと変わらない一撃であった。
しかし、その威力は先ほどの倍以上に上がっていたのだ。
「――ありゃ?」
眼前に次々と灰になっていくワイトたち。
どうやら一度に5万ほどやられたようだ。
漸く数が半分以下に減るが、それでもワイトたちは襲ってくる。
タローも応戦するが、先ほどの威力に少なからず困惑していた。
(なんで上がったんだ……さっきと同じくらいの加減だったんだけどな)
そう思いながら魔剣を振るうと、今度は威力が抑えられていることに気付いた。
(……どーゆ―ことなん?)
もう一度振るうが。今度もきちんと力をセーブした一撃になっている。
タローは自分が無意識に力加減をできるようになっていたのだと考えた。
(なんかわからんけど出来てるし早めに終わろうかな~……めんどいし)
そして、また魔剣を振るった。
ドゴォォォォオオンッッ!!!
油断大敵とはこのことなのだろうか。
対して力を入れていなかったが、残りのワイトを全滅させ、さらにワイト用の防壁ごと破壊していた。
「…………これはやっちまったなぁ」
タローは一人呟く。
その光景を上から見下ろしていたタマコは「やれやれ……」と頭を抱えた。
***
「なんとなく魔剣についても掴んだ気がするわ」
カイエンが紹介してくれた宿でタローはそう言った。
戦いの後、カイエンと国の兵にワイトを討伐したことを報告。
防壁が破壊されていたことに驚いていたが、ワイトの仕業と誤魔化してその場を切り抜けた。
それでもカイエンと兵はたちは感謝をしていた。
だがとにかく討伐は完了したのでその日はゆっくりと休むことにしたのである。
そして現在は起床して朝ご飯を食べているタローなのだが……
「なぁタロー」
「な~に~?」パンをマイペースに食べるタロー。
「朝ごはんだよな?」
「起きてから初めて食べるから朝ごはんじゃない?」
「……今15時じゃぞ?」
そう言って壁に備え付けられている時計を指さす。
たしかに現在15時を回ったところだった。
「15時か……」
ゆっくりとコーヒーに口を付けた。
ズズズッと音を立てて飲むとカップをテーブルに置いた。
「きょーは早起きだ」
「お前の生活リズムはバグってんのか?」
「食ったら眠くなるよな」
「そしてまだ寝る気ッ!?」
もう十分睡眠を取っているはずだが、さすがはキングオブ怠惰である。
頑張ったら頑張った倍は休まないと気が済まない男である。
「さっさと着替えろ! カイエンが話があると言っておったじゃろうが!」
そんなタローを起こすために奮闘するタマコの姿はもはや母親であった。
「あと5時間」
「そんなに待てるか! そしてせめて5分と言え!」
タマコはこの時思いもしていなかった。
まさか彼が、
このあと8時間寝るなんてことを。
***
現在時刻は23時。
教会ではすでにカイエンが待っていた。
「メンゴメンゴ。遅くなりやして」
「お前のせいじゃがな」
ツッコむタマコの顔は疲労困憊であった。
何度も起こしたのだが、一度寝たら起きないのがタローである。
最後は諦めて「コイツを起こせる魔法でも開発しようかのぉ……」と考える始末であった。
「いえいえ、全く待ってはいないですから大丈夫ですよ。
それよりこの度はワイトの討伐感謝いたします」
深々と頭を下げたカイエン。
だが頭を上げると、カイエンの表情はどこか陰りがある。
それを見抜いたのはタローではなくタマコであった。
タローはというと、目をGにして「1000万Gくれ」とどストレートに金を要求していた。
タマコはそんなタローの頭をブッ叩いておいた。
ということで次はタマコが話を進めることにした。
「カイエンよ。貴様も兵たちも喜んではいるがどこか表情が暗いのぉ……まだ何か問題が解決していないのではないか?」
カイエンは図星をつかれたようで動揺する。
そして観念して事情を説明した。
「……まずワイトの討伐に関しては本当に感謝しています。
ですが、その先が問題でして」
「その先?」タローが訊き返す。
「……もうすぐ0時。もう一度墓地へ行ってみるとわかります。
今度は私もついていきましょう」
カイエンが自身の懐中時計で時刻を確認すると、タローたちは墓地へともう一度足を運んだ。
***
タローたちはもう一度壁の上から墓を見下ろした。
そこで目にした光景は、
「「………………増えてる?」」
ワイトたちは昨日時点で10万ほど。
そして今見た段階で、明らかに10万を超えるワイトが蠢いていた。
カイエンは情景を見ながら語る。
「私たちは最初、倒せばいつか増えなくなる、消えると思っていました。
ワイトとは人の死体に怨念が宿ったものです。死体の数は限りがありますので当初はそう考えておりました。
しかし、なぜかこのワイトは一向に減らないのです」
減るどころか増えていくワイトたちに、兵も皆次第に恐怖を抱くようになったのだという。
「一部の物はトラウマになり碌に眠れなくなるという症状まで出ているのです」
カイエンは切実な思いで語った。
そして再び、タローたちに向き直ると勢いよく頭を下げた。
「タロー様らが10万ものワイトを倒しきったと聴いた時は驚きました。
その腕を見込んで頼みます!
どうか、この無限に増殖するワイトの事件、解決するのに協力していただきたい!」
「うん。いいよ」
「…………え、はやっ!」
タローは即OKであった。
あっさり承諾されたことに逆に困惑するカイエン。
そんなカイエンの肩を叩くタロー。
「ま、カイエンさんは休んでなよ。兵士のみんなも今日は休んでいいからさ。
あとは俺たちに任せな」
慈愛の笑みを浮かべるタローにカイエンは目元に涙をためて、何度も何度もお礼をした。
***
カイエンらを教会へと戻らせて、この場にいるのはタローとタマコだけとなった。
ワイトはざっと2倍の20万体ほどいる。
「さて、と」
軽く準備運動をした後、タローは魔剣を構えて戦う準備をした。
だが、それを制止するタマコ。
「カイエンの話では倒しても増える一方のようじゃ。
この依頼は根本的な部分を解決せんことには終われんぞ」
「根本って?」
「ワイトの増殖する原因じゃ。それがわからん限り一生ここでワイトと戦うことになるぞ」
「それは…………めんどくさいな」
「そうであろう? だからまずは――」
タマコが考える解決策。
まずその第一歩は
「この国の歴史について調べる!」
「……えっ、勉強すか?」
タローはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
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