第20話 神聖デメテール国
神聖デメテール国
寵愛・慈愛・豊穣の国と呼ばれるデメテールは、国の中心に聳える大聖堂がシンボルとなっており、観光地として訪れる者も少なくない。
全ての国民が神を信仰しており、皆一様に優しさに満ち溢れていると言われている。
また、他国の孤児や奴隷などを積極的に保護しており、奴隷制度撤廃を世界へ訴えかけている。
このことからデメテールは『世界一優しい国』と呼ばれるようになった。
***
タローとタマコはデメテールにの近くにある森へ到着していた。
というのもタイタンからデメテールまでは徒歩だと10日以上かかるため、タマコの技である
音速ゆえに周りの物を破壊しかねないので空中を移動してきたのだが、空から降りると目立つので遠くの方に着地したのだった。
「ほれタロー着いたぞ」
「んあっ…………あ~寝てた」
タローはタマコに背負われて移動したのだが、移動中には相当なGがかかっているにも関わらず爆睡できるのは彼くらいなものだ。
背から降りると遠くからデメテールを眺める。
タイタンのような石壁は無いが、厳重な警備が施されている。
「ホントにワイトってのが10万もいるのか?」
「ワイトは日光に弱いからのぅ。日中は地中にいることが多い」
歩きながらワイトの情報をタマコは話す。
タマコの話だと、夜になると地上へ出てきて人を襲うそうだ。
大体0時ごろに目覚めることが多いらしい。
ちなみに日に当たらない洞窟に潜んでいることもある。
そうこうしている間にデメテールの前まで着くと、警備兵が入国検査をしていた。
順番を待ち自分たちの番になる。
「ここへ来た目的は?」
「依頼を受けに来た。ワイトの討伐」
タローが依頼書を見せると、警備兵が驚いた。
「この依頼受けてくださったのですね。ありがとうございます!
我々だけでは手が足りなくて…………」
「いいよ礼なんて」
「ち、ちなみにそちらのお連れの方はパーティーの方ですか?」
「使い魔だ」
「タマコじゃ」
「そ、そうでしたか。申し訳ありません」
タマコの美貌に少し見とれていた警備兵だが、使い魔とわかると急に顔を青ざめた。
すると、手早く入国許可書を発行して「依頼頑張ってください!」とエールを送り、次の人の審査を始めた。
***
さて、依頼を達成するのもいいが、ここは観光地としても有名なデメテール。
仕事の前に観光しておくのも悪くはない。
まずは腹ごしらえするためにタローとタマコはデメテールでも有名なレストランへと向かうことにした。
ウキウキで向かうタローであったが、タマコは少し気分が良くなかった。
というのも先ほどからすれ違うたびに視線を向けられるのだ。
それでも気にせず歩いていると、一人の男性に声をかけられる。
「そこのお嬢さん。私と食事でもいかがかな?」
その男はスーツにオールバック。身に着けている金品からしても金持ちであることが伝わった。
「けっこうじゃ」
すぐに断り歩き去るが、
「お姉さんキレイだねぇ! 俺と遊んでかない?」
「おっほっほ! ワシにケツ触らせてくれんかのぉ?」
それはそれは酷いナンパの嵐であった。
横に
そのせいでレストランへ向かいたいのに先ほどから7歩しか進んでない。
「……タマコ俺腹減ったぞ」
「……私もだ」
いい加減うんざりした時、タマコが「やれやれ」と言って男たちに向き直った。
「俺とデートでも!」
「私とランチでもいかがかな!」
「ケツ触らせぇ」
男たちがタマコへ詰め寄る。
すると、タマコは男たちにしか聞こえない声で囁いた。
「どかねぇとキン〇マ握り潰すぞ」
それは男たちにとっては未知の殺気であった。
さすがは魔王。迫力が違う。
男たちは一目散へと逃げ帰り、他に群がっていた男たちもタマコの怒気にあてられ離れていった。
「美人も疲れるんだな」
というのはタローの言葉であった。
***
「つーかお前の格好が原因じゃね?」
目的のレストランで食事に舌鼓を打っていると、唐突にタローが言い出した。
自分の格好を見ても何が悪いかわからないタマコ。
「なにか問題あるか?」
「胸元とか出ててなんかエロいんだよ。そのドレス」
タマコの格好はタローと戦った時のドレスのままである。
タローは見慣れてしまったが、他の人が見るとタマコの美しさも相まってその優美さを増していた。
タマコは「そ、そうなのか。いつもこの格好だったからわからん……」と困惑している。
「心機一転したって言ってたじゃん。髪だけじゃなくて服装も変えれば?」
「確かにそうじゃが……どんなのが良いのかよくわからん」
タマコは人間の普通の服装がわからなかった。
「安心しろよ。俺が選んでやるからさ!」
タローは自信満々に言うと、お会計を済ませて服屋へと向かった。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
で、選んだのだが――
「うん。これでいいや」
「…………ジャージやん」
上下黒のジャージであった。
タローは普通じゃないので普通の服装など知らなかった。
もう少しいい服が良かったタマコは不満そうだ。
「もう少し可愛いのはないのか?」
タマコが訊くと、タローはため息をついた。
「もうちょい自分が美人なこと自覚してもいいと思うぜ? さっきから何回話しかけられてんだよ」
「び、美人// ……た、タローはどう思うのじゃ?」タマコは顔を赤くして訊いた。
「どうって何が?」
「私のこと、美人だと思うか?」
「……何言ってんだよお前?」
タローは首を傾げた。
(まぁ、タローに女の気持ちはまだ早いか……)
その反応に少しガッカリしたタマコ。
だがタローの言葉には続きがあった。
「そんなん――」
「?」
「奇麗に決まってんじゃん」
「…………//」
最大限に顔を赤くするタマコ。
だがすぐにハッとなる。
(ま、まずい本能が目覚めそうじゃ!)
頑張って抑え込んだ本能がまた爆発しそうになるが、強靭な理性で抑え込んだ。
だが、それも完璧ではなかった。
「タロー」
「ん?」
「これ……買う//」
こうしてタマコの
***
最後にタローらが訪れたのはこの国のシンボルである『デメテール大聖堂』だ。
豪勢な扉に、頂上には大鐘楼が目立つ。
その神秘的な建物は神を信仰していない者でも、一度は祈りを捧げたくなるほどだ。
「デッケェな」
「魔王城も豪勢じゃったが、ここも負けておらんのぉ」
二人ともそれぞれ感想を述べる。
外観を見終え、いよいよ中に入った。
入ると奇跡的にお客さんはいなくて、貸し切り状態であった。
「おぉ……って感じするわ」
「私はわぁ……って感じがしたぞ」
神を信仰していない者でも、一度は祈りを捧げたくなるほど神秘的なのに二人とも感じることは浅かった。
所詮芸術なんて見てもフワフワした感想しか出ないもんである。
だがせっかく来たので、ついでに祈りをささげることにした。
「ところで祈りって何するん?」
「魔王にそれを訊くのか? 私も知らんぞ」
もう帰れよとでも言いたくなるが、せっかく観光地に来て何もしないのも気が引ける。
とりあえず目をつぶって祈ってる風でごまかした。
するとそこへ声をかける者が一人――
「何かお困りですかな?」
「うぇ?」
突然話しかけられ変な声が出るタロー。
その人は優しそうな顔の初老の男性だった。
その男はタローが驚いたのを見て笑いながら挨拶をした。
「失礼しました。私はこの大聖堂の司教をやっております"カイエン"と申します」
「あ、どうもタローです」
司教のカイエンと名乗る男は手を差し出したので、タローも挨拶をして握手をした。
お互いに手を離すと、カイエンはタローの横の人物に目が留まった。
しばらく見つめると、タマコは視線に気づき目を開けた。
「む、なんじゃ?」
カイエンは何もしゃべらず見つめたままだ。
またタマコに見とれたのかと思ったが、それは違った。
「――きゅ、吸血鬼か!?」
「っ!」
タマコは人間ではないことだけでなく自分の種族ごと見破ったことに驚いた。
しかし、カイエンの声に教会のシスターが一斉に反応した。
手に聖水と十字架を持ったシスター6人がタマコを取り囲む。
「「「「「「神の名のもとに断罪する!」」」」」」
どうやらワイトの前に一波乱あるようだ。
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