第113話 サザンカ

あらすじ シンは蚊帳の外。


「タイホン?」


「どうやら、カンダ・シンのことのようです。アレックスさん。うちより情報持ってる」


 二人は言いながら銃を構えていた。


「知る必要はないわ! ここで死ぬのだから!」


 魔女が喋っている間に地面に光り輝く模様が浮かび、そこから西洋の甲冑に剣と盾を持った大柄な男たちがぬるりと現れる。隙間から見える肌の色が青く、生気を感じない。


「エイデン!」


「援護します!」


 銃声と同時に男たちは走り出した。


 甲冑の兵士たちに銃弾が当たると中の肉体が溶け、液体が飛び散って崩れるのが見える。よくわからないが普通の銃ではないらしい。


「逃がさない!」


 魔女は僕たちの方を指さす。


「!?」


 それが視界に入っていたのはたぶん担がれていた僕だけだったけど、上空に浮かんだ帆船の大砲が炸裂して空気が弾けた。


「上からか!」


 一瞬、反応が遅れたのがわかる。


「アレックスさん!」


 エイデンが僕ごとハゲ頭を突き飛ばしたのは直後だ。見えていたとは思えなかったけど、判断が早い。爆風と土煙が広がって、抱えられていた僕は投げ出された。


 ヤバい。動けないのに。


「頂きますわ」


 魔女が僕をなにかの力で浮かせて掴む。


 ふわりと片手で引っ張られる。


「させるかよ!」


 オートマティックな銃声。


「無駄!」


 パキン!


 この状況で正確に頭を狙った複数の銃弾だったが、魔女の正面には赤い半透明の壁が出来ていてそこで食い止められていた。


「やりなさい!」


 そしてアレックスの背後にもう甲冑の兵士たちが迫っている。光り輝く模様からまだ次々に出てきているようだった。


「なめるなよ!」


 でも、動じていないように見える。


「魔女をなめているのはそちらでしてよ?」


 火だった。


 手を広げて突き出したと思った直後には視界を覆い尽くすほどの大きな炎が広がっていて、熱気が僕の顔の表面を焦がす気がした。魔女の黒髪が赤い光を放っている。避けるとか避けないとか言ってられない。


 味方の兵士を巻き込んでる。


「……」


 決定打に見えたけど、魔女は動かなかった。


 むしろ炎の向こう側を意識して睨んでいる。近くで見るとくのいちより年齢的には高そうな女性だった。ベテラン感がある人が油断していない状況は僕にとっても緊張感がある。


 どっちに捕まった方がマシなんだろう。


「ふううう……」


 炎の中から現れたのは凍った肉体のハゲ。


 冷気が広がってくる。


「どこぞの魔女が力を貸しているという噂は本当だったようね。肝臓十字軍。その力に手を染めて、代償を払うアテがあるのかしら?」


「知ったことか」


 凍り付いた口を動かしてアレックスが言う。


「ええ、ぼくたちに選択の余地はない」


 エイデンも無事だった。


 二人とも氷の肉体を持っている。


大本タイホンの価値も知らない癖に」


 魔女は憂鬱そうに首を振った。


「……」


 僕も知らないんですけど。


「鳩の卵の魔女」


「サザンカ。わたくしの名前を呼ぶときはそう呼んでくださる? ここであなた方を殺すことは難しそうだからまた会うこともあるでしょう……わたくしの船を氷漬けにしてくれて。でも」


 魔女が見上げた先の帆船は確かに氷塊と化していた。空に浮かんだままの状態だから目立つ。おそらく十字軍の仲間たちも来るだろう。


「……!?」


 ぱちん。


 不意に僕の拘束がすべて解けた。


「あなた方もこうなると困るでしょう?」


 そして魔女が僕のちんちんを握っている。


「あう」


 ズボンに手を突っ込むのが速い!


「焼き切ってしまってもよろしいのよ?」


 根元が熱くなる。


「……は?」


 僕のちんちんを!?


「なんだと?」


「カンダ・シンの精子が目当てじゃないのか」


 アレックスとエイデンは真剣な顔だ。


「……な!?」


 そっちは精子が目当てなの!?

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