第81話 危険を冒す価値
あらすじ シズクは後始末に奔走した。
頼れるのは文科省だった。
「ロッカク・タカセ。十七歳。クノさんが踏み込んだ部屋には都内の高校に通う女子が住んでいたことが確認できました。顔は三次研の監視カメラで撮影されたものと一致します」
シズクは積み上げた資料を説明する。
「……この女だ」
学生証のコピーを見てクノ・イチは頷いた。
「学校関係者からの聞き取りを行い、彼女の交友関係を洗ったところ、イエタ・シマという同級生と非常に仲が良いことがわかり、その家が先日の戦闘地域とほど近いこともあり当たりをつけ、周辺の防犯カメラ等を洗って、タクシーで北関東方面へ移動したことを確認しました」
シズクはつづける、
関係各所に頭を下げて回り、一週間かけて掻き集めた情報だった。蔵升島でクノ・イチを待たせて納得させるには色々と法律を無視もした。
気まぐれに殺されては困る。
そして出世からも確実に遠のいている。クノ大臣にはさらに偉くなって貰って引っ張り上げて貰わなければ帳尻が合わない。カンダ・シンを奪還し、機嫌を取って仕事をさせる。
「運転手はマミヤ・カナエ。三十三歳。こちらはこの件のあと電話でタクシー会社を退職しています。車両は那須塩原駅付近のコインパーキングに放置されていました」
「関連があるのか?」
当然の疑問をクノ・イチは口にした。
「あると私は考えています」
シズクは頷く。
「これはクノさんの意見を受けて、協力して貰ったオオクス博士の推測でもあるのですが、シンくんに生物兵器が隠された理由はおそらく、男性としての能力、潜在的魅力を高く評価されたからだろうということです。その目的は」
「生物兵器を、セックスでばらまく」
流石に察しが良かった。
「……考えたくないことですが」
しかし、辻褄は合ってくる。
生物兵器、圧倒的殺意を内包した生き物を生殖行為で増やしていくことができるのならば、女性を引き寄せる少年を探し出して隠すことには一定の意味がある。一般的にセックスを行える年齢まで成長する時間がかかることを含めて、犯人が曖昧になるからだ。
「マミヤ・カナエの自宅を捜査し、ママ活の痕跡を発見しました。あー……クノさん。ママ活のことはご存じですか?」
「いや? なにかの流行語か?」
世情など気にしない忍者は首を傾げる。
「流行と言えばそうかもしれません。お小遣いをあげて、若い……幼い男児とセックスを行い、妊娠を求める女性を総称する言葉です」
「……なんのために?」
クノ・イチは理解できない様子だった。
「子供を産むことで、所得税の生涯免除、子育て支援金の交付、現実的なメリットがあります」
「なぜ子供に行くんだ? 大人の男なら金を払わなくてもセックスぐらいしたがるだろう。犯罪にもならない。危険を冒す意味がわからない」
なぜか常識的な反応を示された。
「それをクノさんが言いますか!?」
シズクは流石に呆れた。
「? なんの話だ」
「シンくんを犯した癖にって話ですよ!」
どの口で常識的なことを言うのだろう。
「わたしに危険などないが?」
この口だった。
「危険だったらやらなかったんですか!?」
「……やっただろうな」
少し考えて、クノ・イチは頷いた。
「シンは特別だった。危険を冒す価値はある」
「そういうことですよ」
「なにが」
「迷信みたいなものですが、若くて新鮮な精子の方が健康な子供が生まれると考えられているんです。本来的にこの政策の対象はすでに結婚しているか、あるいはパートナーを持っている人間が結婚に踏み切りやすくするためのもので、単身で三人も子供を産もうなんて女性はかなり例外的なものとして考慮されてなかったですから」
「子供のため、か」
「子供を育てる自分のため、だと思いますが」
どちらにしても価値がないとは言えない。
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