第53話 ロッカク・タカセ

あらすじ カンダ・シンは狙われている。


 やっと尻尾を掴むことができた。


「……まさか本当に国立科学博物館だなんて」


 有名で目立ちすぎる隠し場所を前につぶやく。


 クノ・イチによって標的を奪われてから半月が経つ。これまではその冷徹さによって痕跡を残さなかった忍者にして魔女だが、その少年に対しては動きが甘く、綻びを多く残していた。


「このチャンスは逃さない……っ!」


 ロッカク・タカセは侵入を開始する。


 平安の世より甲賀衆として名を残す忍者の末裔であり、日本政府内部でクノ・ミドリの台頭を面白く思わない側から雇われて、失脚させるための決定的証拠を集めている。


 義理の娘イチの大量殺人を暴く。


 それが甲賀衆のシンプルな答えだったが、仲間はもちろん、多数の敵対組織を相手にしてさえ、殺された死体ひとつ残さず、その処分の追跡さえ許さない忍法ワープによる完璧な証拠隠滅を前に何年も手をこまねいていた。


 そこに現れたのがカンダ・シンだった。


 手を出さずにクノ・イチの後を追って、殺すこともなく奪われた少年を見つけた。そこに『なにか』があるのは間違いないとタカセは賭けた。勘ではあった。


 それでも逃すわけにはいかなかった。


 横取りしたスミレという魔女を追って、そこに忍者ドローンが現れるのを確認。その操作を行う電波から文科省との繋がりを確認。資金の流れから国立研究開発法人・文化技術研究機構との繋がりを確認。都内にあったダミー事務所のコンピュータをハッキング、独立行政法人・国立科学博物館への不透明な資金の流れを把握、そしてクノ・イチの周辺に時々現れていたムトウ・シズクという文部科学省職員の存在を確認。


 地道な追跡がやっと実を結んだ。


「屈辱は返す」


 女だから見逃された。


「追って来い。次も遊んでやる」


 吐きかけられた言葉。


 タカセの脳裏には苦々しい記憶が蘇る。


 多くの仲間が殺された現場で、クノ・イチに汚され、そして放置された。自害すべきだった。生き延びた理由を仲間にも言えず、亡骸すら残らなかった墓を前に悔やむ日々を送ってきたのは復讐のためだった。次は、遊ばせたりしない。


「……」


 通気ダクトを通り、内部に潜入する。


 ネズミ一匹見逃さない仕掛けはあったが、タカセは油断なく解除した。それができるだけの修行は重ねてきた。クノ・イチとの実力差が埋まっていないことがわかる程度には力をつけている。絶対の弱点を握り、必殺の一撃を決めるチャンスを逃さない。


 それだけが唯一の勝機だった。


「!」


 そして捕らわれた少女を見つける。

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