第9話 責任を取らせる

あらすじ 忍者七つ道具の説明を受けた。


「要するに、ヤバいってことね……」


 僕はベルトを肩からたすき掛けにする。


 七つ道具は便利な道具ではあったが、この状況で頼りになるアイテムではなかった。ないよりはあった方がいい程度、おまもり。気休め。走りながら説明を聞いて意図がわかる。


 いきなり使いこなせない。


 本当はもっと安全な状況で貰うものだ。


「予定では、もう、とっくにあの人が間に合ってるはずだったんですが……えーと、そしてもうひとつ残念なお知らせです」


「まだ? なに?」


「忍ドロのバッテリーが切れますので、離脱します。充電が完了して戻ってくるまで三時間程度かかりますので……あとは一人で」


 絶望的な情報だった。


「……はーい」


 しかし、どうしようもない。


「き、きっとあの人、来ますから。シンくんを見捨てたりはしない、と思いますから……」


 信じてない慰めの言葉だった。


「どっちに捕まっても……同じかも」


 なんのために逃げてるのかわからなくなる。


「諦めないでください。詳しく事情を語ってる時間がありませんが、あの人のおかしさを加味しても、こちらがマシな方です。魔女はよくありません……説得力ないですけど、ホント」


「そうだと、良いと思う」


 中学にあがって、将来のことを考えはじめた。


 僕は特に勉強ができる訳じゃない。


 ならば目標を定めて、努力しないといけないと思っていた。母さんがそうであるように、学校の先生たちがそうであるように、出会う大人たちが自分で選んだ最良の結果として僕の目の前にいるわけじゃないことがおぼろげにわかってきたからだ。そうなりたくない。


 ネガティブな動機だった。


 たぶん、願いがまっすぐじゃなかった。


 だから、結果として、僕はもう中学すら卒業できないかもしれない世界へ足を突っ込まされている。そのことに今やっと気付いている。理由はひとつ、歩道を歩いていたら乗り上げてきた車に轢かれたからだ。生きていたから幸運だと思ったけど、不運のはじまりに過ぎなかったのだ。


 よりマシな方へ。


 その結果の大人たち。


 僕もそうなりつつあるのだろう。


「はっ……はっ」


 カラスが空を覆いはじめていた。


「くそっ、なんで僕が……」


 息を切らせて走る。


「見ぃつけた!」


「……」


 スミレが牙を剥き出しにして笑っていた。


 カラスが輪を描いて回り出し、その中心に降り立ってくる。雪かきを足で立て、片手に握りしめた時には冷たい風が吹いていた。七つ道具のついでに聞いた情報としては、雪の魔法を使うのだそうだ。


「どうして逃げる。悪いようにはしない。わかってるだろ? クノ・イチのところに行っても、おまえはあの女のオモチャだぞ?」


「ほっといてくれ」


 どちらがよりマシかなんて知らない。


 わかっていることはひとつだ。


 僕には、なにかが隠されてしまっている。


「くのいちさんに、責任を取らせる」


 だとすれば、迷惑をかけて気が楽なのがどっちかって話だ。よりマシな方。なにが正しくて、なにが間違ってるのかはわからない。ならば選ぶべきは、僕の気持ちが楽な方はどっちかってことだ。苦労して貰っても、くのいちの自業自得だ。

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