第7話 忍ドロ
あらすじ くのいちの仲間がシンを頼まれた。
連れてこられたのは林の中にある城のような廃墟の建物だった。ホテルの文字は見える。潰れているらしい。雪かきごと屋上に降下、そしてそのまま僕は後ろ手に縛られた。
なんか黒く光る魔法っぽい紐だ。
「魔女はこんなところに住んでるの?」
逃がす気はないらしい。
「まさか。ここから転移魔法で飛ぶ」
そう言って、スミレは雪かきを持つとあからさまに周囲を気にしながら、僕から見えない位置に移動する。魔法を使っているところは見られたくない、のかもしれない。
真似すれば使えてしまうのかも。
「……」
なら、ちょっと見たい。
けれど、反抗的な態度を取って酷い目に遭わされるのも考えたくなかった。大人しく待つ。待ったところで状況が良くならないのはわかってる。正直、僕は臆病になっていた。
くのいちのせいだ。
魔女になる。魔物ってなんだかわからないが、そんなものとセックスさせられておかしくなっているのかもしれない。でも別に同情したくもない。僕にとってはくのいちが魔物みたいなものだ。
「よろしいですか?」
「……?」
声のした方を向くと、円盤が浮かんでいた。
光沢のない銀色で、人間の頭ぐらいのサイズで、どら焼きみたいな形と言えばいいのだろうか。上下別れた機体に挟まれる間に異様に静かな、ささやき声さえもかき消さないプロペラがいくつも高速で回って、地面に対して平行を維持して飛んでいる。
飛べる構造なのかこれ。
「はじめまして。忍者ドローン、忍ドロのシズクです。時間がないので拘束を解く前に、こちらの指示に従って頂くことを納得してください」
「は?」
「静かに」
しーっ、と僕の声が大きくなるのを制する。
通信で話しかけてるにしてはこちらの様子まで繊細に把握できてるみたいだった。カメラらしきものは見えないんだが、しっかり見られてる。
「救助に来た、と言いたいのですが、ご覧の通り忍ドロ越しですので、指示に従って頂いて、脱出を図るということです。いいですか?」
「……」
僕は首を振った。
「忍者にも魔女にも助けられたくない」
「わかります」
「わかるなら」
「シンくんに、忍者になってもらいます」
「に……」
思わず心躍ったのを隠せなかった。
「いい笑顔です。男の子なら忍者、なりたいですよね。壁も走れます。天井にも立てます。空を走るのは練習が必要ですが、いずれ」
ドローンは頷くように小さく上下に動いた。
感情表現まで操作するのか。
地味に細かいことをする相手らしい。
「わかったよ」
僕は頷くしかなかった。
拒否しても状況は好転しない。そんなことはもうわかっている。怪しげなドローンに従うことで、魔女に捕まって子作りの道具にされないで済むのならばマシにはなってるはずだ。もうセックスなんかしたくない。
「拘束を解いたら、青いバンドを足首に、白いバンドを手首に装着してください。魔法は解除すると使い手にわかってしまうので、そのまま走ることになります。いいですか?」
ドローンはどら焼きの底を開けて青と白、二本ずつのバンドと呼ぶものを落とした。テニスプレイヤーが手首に巻いてる感じのアレだ。
「……」
僕は緊張して頷く。
「では、いきますよ」
ドローンは背後に飛んで上から二本の細いアームを出した。複数の間接があって、先っぽは三本ずつ指のように動かせる具合だ。
ちちっ。
静電気のようなピリッとした痛みが走って、黒く光る紐が消える。僕はバンドを拾って、伸縮性のある素材を靴側から通して足首にはめ、走り出した。問題は屋上だってことだ。
「どこへ、行けば?」
手首にも装着しながら尋ねる。
「まっすぐ、そのまま、壁に足の底を向けてください。自動で重力制御されてくっつきます。そのまま歩けて、走れます」
「ま……」
ウソだろ。
城みたいなホテルの屋上からは暗い夜の林、杉の木の頭が見える。地形はわからないが低くないはずだ。落ちたら死んでもおかしくない。
「おい! 逃げてんじゃねぇ!」
血の気の引く僕の背後で魔女が叫ぶ。
「信じてください! シンくんを殺したら、こっちだって殺されるんですから! わかるでしょう! あの人、頭おかしいんですよ!」
「……」
いきなり現れたくのいちに汚された。
怪しい事故の隠蔽を親がしてた。
あっさりと親に捨てられた。
僕の中にはなにかが隠されてしまってる。
どうせ死んだようなものだ!
僕は低い屋上の壁を乗り越え、落ちるように壁に靴底を擦らせる。それは信じられないほどに自然に壁を踏みしめ、勢いのまま歩を進めても空中に放り出されはしなかった。ドローンの言葉通り。
「おおおおおおおっ!」
前傾しながら壁を走り出す。
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