初戦
駆けつけた俺が見たものは、まだ10歳程度であろう少年と少女、そして彼らとの距離をジリジリとつめていく熊の姿だった。
少女は気絶しているのだろうか、目立った外傷は無いが横たわって動かず、少年は必死に熊を追い払おうとしている。
対する熊は目測3メートルはありそうな巨体だ。
このままではあの二人は間違いなく死ぬ。認識した瞬間、俺は動いた。
「ラアァァァァァァァァァッ!」
背負っていた薪の束を咆哮とともに投擲する。熊はこちらに気付くと、素早く身を翻してそれを回避した。
「グワアァァァァァァァァァ!」
やつは俺を危険だと判断したようで、狙いを変えてこちらに迫ってくる。
走って逃げることは不可能。だからこそ俺は今この身一つで目の前の化け物を打倒しなくてはならない。
体当たりをギリギリまで引きつけてかわして懐に潜り込み、やつの肋骨を全身の筋力を動員した肘打ちで叩き上げた。
太い骨が叩き折れる感覚。やつが苦しむ姿を見ながら、同時に俺は自らの失策を悟った。
全力の肘打ちを叩き込んだ俺は隙だらけだった。
対してやつは肋骨が折られただけに過ぎない。当然、反撃のために腕が薙ぎ払われた。
初撃の体当たりは単に突っ込んできただけだったので俺でも避けられた。しかしこの反撃を咄嗟に回避できるほど、俺には戦闘センスが無かった。
鉤爪で胸を切り裂かれながら、俺は吹き飛ばされた。真一文字に切られた胸からは、止めどなく血が流れ出ている。あまりの苦痛に息すらできない。
そうだ、彼らは...
俺の視線の先には子供たちはいなかった。
「よかった...逃げられたんだなぁ...」
痛みの中に訪れたわずかな安堵感に誘われて、俺は意識を手放した。
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