番外編その2 「酒は飲んでも飲まれるな ~遊撃手&錬金師編~」
「ちょっとちょっとレンリ! 早くきて!」
「ガスパーさんとナナハネちゃんが……。休憩室が大変なことに……」
一日仕事に追われて疲れていたレンリは、速めの床に着こうとしていた。そこへ、双子の女子社員がノックもそこそこに飛び込んできた。
そのただならぬ様子と台詞の内容から、ここで二人に文句をぶつけている場合ではないと悟った彼は、双子に見送られて階段を降りていった。
「ってあなたたちはこないんですか!」
「あんなの止められるわけないでしょ?」
「ごめんなさい。私、まだ死にたくはないので」
「くらえーーーーーっ!! 秘奥義!! ミッドナイト・ガイザー!!」
聞き慣れた叫び声に、重い物がぶつかる音。レンリの足が重さを増す。
「くっ、外したか。これならどうだ! 裏奥義!! エンペラー・ストライク!!」
今度は、何かの割れる音。レンリの足が止まる。
「僕は何も知らない……僕は何も知らない……」
言い聞かせ、回れ右。そのまま一目散に上り階段へ向かおうとした彼の背中に、温かい物が覆い被さってきた。
「レンリしゃん、みーっけ♪」
「わっ! なっ、ナナハネさん……!?」
「シャルネしゃんもシャルナしゃんもー、どっか行っちゃったんれしゅよー。ねーえー、一緒に飲みましょうよー♪ ほらほらー、私も飲みましゅからー♪」
彼女の手には、半分ほどになった酒のグラスが握られていた。休憩室の中から陽気な男の鼻歌が聞こえる。
ナナハネの腕に半ば首を圧迫されながら、レンリは必死に言葉を紡いだ。
「け、結構です! そんなことより、なぜ二人で飲むことになったんですか? 以前旅行で飲みすぎて、ホテルを出禁になったことを、あなたたちは忘れたんですか?」
「らーいじょぶれしゅよー。ここは会社れしゅからー、誰にも迷惑をかけないで飲めるんでしゅよー」
「迷惑、かけられてるんですが。現在進行形で」
彼女の取柄である気遣いも、アルコールが入ると意味をなさないらしい。
「くっくっくっ。この最終奥義で全てを無に帰してやろう……。生命力を糧に発動せよ!! ダークネス・ディストラクション!!」
何かが割れる音に、液体が散らばる音。レンリは少々強引にナナハネの腕から抜け出そうとした。
「ディープ!」
声は、すぐ近くからだった。ぎょっとして目を向ければ、薄暗がりの中に白い輪郭がはっきりと浮かび上がっている。
ばたんと、人が倒れる音。暴君と化していた錬金師は夢の世界に旅立ったようだ。
「お疲れ様。ところであなたたち、何をしてるの?」
不穏な気配の漂う声に呼びかけられて、ナナハネに抱きつかれたままだったことに気が付く。慌てて離れようとするが、サーカス団出身の女の力は伊達ではない。
「いえ、その、これは……」
「シュカーレット社長らー! 今ー、レンリしゃんにぎゅーってしてたんれしゅー! だーれもいなくなっちゃってー、つまんないからー♪」
「ディープ!」
冷静な彼女らしからぬ冷ややかな声だった。相手は可愛がっている部下だというのに、詠唱に一切の遠慮がない。
片手にビジネスバッグを持ったスカーレットは、すやすやと眠るナナハネをレンリから引きはがすように奪い、背に軽々と抱え上げた。何度見ても、彼女の怪力には驚かされる。
「ガスパーくんとナナハネちゃんは減給ね。レンリ、後片付けをお願い」
「なぜ僕なんですか? 巻き込まれた側なんですけど? 不条理です! 理不尽です! 納得いきません!!」
レンリの抗議に耳を傾けることなく、スカーレットは上り階段へと消えていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます