異形者編
第三章 「魔法書店は欺瞞の香り」
01 悪魔の囁き
◆1
分厚い雲に覆われた空は、どこまでも深く暗い。
夜の公園には、纏わりつくような
「『ウェーブ』?」
鎖の軋む音の中に、女の声が加わった。それに応えるのは、幼い印象の高い声。
「磁場を操作して、相手との距離を縮める中級補助魔法だよ。掛けられた奴は、わけも分からないうちに、一瞬で君のところまで移動するんだ」
「テッド? あなた、戦いで使える魔法をくれるって言ったよね? こんなの、何の役に立つわけ?」
不満を色濃く含んだ女の声に、鼻で笑う子供の声が重なる。
「役立つよ。強力も強力だよ。そうだなあ。例えば、味方の誰かが殺られそうになってて、君が安全地帯にいたとしたら?」
「馬鹿にしてんの? あたしに味方なんかいない」
「じゃあ、僕を守ってよ」
「守る? あたしが? 天下の悪魔様を?」
小さな手が、女に何かを差し出した。女もそれを受け取ろうと手を伸ばす。だが、不意にその手が動きを止めた。
「どうかしたの?」
幼い影が無邪気に問う。女は答えた。人が変わったように、その声は小さく、弱弱しい。
「あれ? でも、これ……中級魔法……。あたしじゃ、読めないんじゃ……?」
「君にも読めるよ。初級魔法の魔法書しか読んじゃ駄目だって言うのは、魔法教会が君に掛けた呪いなんだからさ」
幼い声が囁く。諭すように、
「魔法教会の……呪い……? ねえ……」
「なあに?」
「そう言えば、ねえ、あんた……」
女の乗ったブランコがぴたりと停止した。風が止み、静寂が満ちる。
「あんた……誰……?」
「シャッフルフォール」
二人の周囲の夜の闇が、急速に濃度を増した。もう一つの影は、女の前に立っていた。
その影が、小さな手に握られた杖から、凝縮した闇を一粒解き放つ。それはすぐさま真正面の無防備な影を捕えた。
ぐらりと傾く女の身体を、小さな手が受け止める。
「あ、あたし……」
「効果が切れるのが早くなってきたなあ。そろそろ潮時かなあ?」
台詞の内容を無視すれば、
赤ん坊をあやすような甘くとろけた声音で、彼の者は女を
「はい、ミゼル。本を開いてごらん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます