化かすもの

ツヨシ

第1話

道を間違えた。

分かれ道で右に行かなくてはならないのに、なぜか左に行ってしまったのだ。

その上に道を間違えたことに気づくまで、けっこうな時間がかかってしまった。

今までに数回この道を通ったことがあったというのに。

間違えるなんて考えられない。

――いまさら引き返すよりも、このまま進んだ方がましか。

正しい道なら真っすぐに目的の街に着く。

こっちの道は前に地図で見たことがあるが、大きく迂回して同じ街に着くのだ。

――それにしても……。

こっちの道は本来の道よりも細くて険しい。

車の幅ギリギリしかない場所もある。

対向なんて物理的に無理だ。

――対向車が来たらどうしよう。

そんなことを考えながら車を走らせた。

まさに山道という感じで、一軒の民家はおろか、人工的なものがなに一つない。

間違えた自分に恨み言を言いながら車を走らせていると、そこにあった。

自動販売機。

俺は思わずブレーキを踏んだ。

――えっ、こんなところに。

まさにこんなところだ。

どう考えても近くに民家は一軒もない。

まわりに人がいない場所に自動販売機があるのだ。

だいたいここに電気が通っているとも思えなかった。

俺は車から降りて自動販売機の前に立った。

見慣れた自動販売機だった。

俺がいつも買っている缶コーヒーもある。

試しに買ってみた。

お金を入れてボタンを押すと、缶コーヒーが普通に出てきた。

手に取ってみたが、どう見てもいつも飲んでいる缶コーヒーだ。

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