鏡#3

 自らの存在意義に抱いた不安を振り払おうと篠原は躍起になった。自分は魅力があって羨まれる存在なのだ、と顕示するように大岩をいじめてやった。


 そしてやはり多くの人間が篠原の味方をした。


 そうすることで再認識することが出来た。やはり篠原花玲は可愛い、だから偉いんだと。


 そんな矢先だった。クラスでは1番親しくしていた友人の水瀬に呼び出された。


 奇しくもそれは篠原が振られた屋上だった。


 水瀬から浴びせられた言葉は長年彼女が秘めてきた本心だったんだろう。しかし、それは到底篠原が素直に受け止められるものではなかった。


 嫌いだった。おかしいと思う。可愛いだけ。


 どれも初めて言われた言葉だ。しかし、それが最も親しい人間の口からでると言うことはほかの多くの友人も自分の事をそう思っているんじゃないか?と篠原は怒りよりも悲しみ衝撃を受けた。


 手鏡を覗き込む。


 自分の何がいけなかったのか。自分を。水瀬の言葉を反芻する。


 篠原の美貌は決して生まれ持ったものだけではない。容姿にしてもコミュニケーション力にしても幼い頃から血のにじむ様な努力をしてきた。母親の再婚相手の、血の繋がらない父とその連れ子の兄。家庭では母は発言力がなく、篠原は父兄に気に入られなければ居場所がなかった。幼いながらに知らないおじさんに懐いているフリをして磨いてきたコミュニケーション。兄に気に入られるにも美しくなくてはならなかった。


 それ故の美貌、それ故の人気。


 でも、本当は篠原自身も分かっていた。篠原花玲は可愛い、けれどと。


 ようやく分かった。絶対に誰も逆らわないようにするには、子供だましは通用しない。可愛いだけじゃダメなんだと。それ以外の魅力を磨かなければならないのだと。

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