第4話

 いま、俺はすごい焦っていた。


 うおおおおおお。なんで今ブッキングするんだああああ。


 時間はまだ9時半ば。でも、転校してきたばかりの女子生徒をコスプレさせて歩かせている変態にしか見えないこの状況どうすりゃいいんだよ。


「この時間に何してるの? そろそろ補導時間だよ。てか、何その格好? 咲耶もしていたけど、流行っているの?」


「あ、ごめんなさい。これ、私の私服なんです」


「……こっちこそごめん」


 さすが先生大人な対応ができる人だ。って、あれ? 手に、こんな包帯朝してたっけ? 


「って、そういうことじゃなくて、なんで二人しているのって」


「いやあ、すいませんちょっとコンビニにであって、そこから二人話しながら帰っていたんですよ」


「そう、ならいいけど……。あ、そういや近くに車あるから二人とも送るわ」


「大丈夫です。いえ、家が近くなので」


「私も……」


 そういって俺らは、急いでこの場を去ろうとする。


 でも、俺だけ急に肩をつかまれ


「送るからね。ね?」


 ぞっとした。


 雰囲気が変わったのを察して、怖くなった。


「目が怖いですよ……放してください。先生」


「大丈夫何もしないから。何もしないから!!!」


 だんだんと型をつかむ力が強くなっていく。うっ血までしていく感覚まである。


「いだだだだだっ。ちょ、ほんとに」


「ね?」


「あのーすいません。「悪魔がしゃべるなああああああああああああ!!!」


「「!?」」


 あまりにも衝撃の一言だった。痛みを忘れるくらい。


「私は狙ってたコイツ獲物」


 ろれつが回っていないくらい。いや、ちゃんと喋れているのかわからないくらい意味不明な言葉だった。


 獲物? 狙っている? そう考えていると、


「っぶねえ!!!」


 止まっていた体を無理やり動かすために急に腕をつかまれて、そして引っ張られる。


「ペネロさん」


 安心したのもつかの間、カチカチと音がした。


「呼び捨てでいいよ。それよりも体動く?」


 目の前にいる恐怖の象徴みたいなものから発生させられた、口の音が不快を与える。


「ああ。一応」


「悲報だけど、今の私には戦えない。いや言い方が悪いね。戦えるけど、ちょっとしかできない。そして今やったって、アスモデウスに勝てる未来が見えない」


「じゃあどんな感じで逃げるんだ」


「二人固まって気合と根性。守るくらいはほんとにぎりぎりできるから」


 気合と根性か。


「悪くはねぇな」




「右!!!」


「次は右だな!? っぶ、なあ!!!」


 よけた位置から地面が抉れていく。


 悪魔……いや、化け物の拳は、あんなに威力あるものなのかと思ってしまう。


「っ、ラァ!!!」


 逃げつつ瓦礫をつかみ、彼女は相手の顔に投げつける。


「!?」


 当たった瓦礫は、粉塵と化し


「やっぱりだめか」


 一瞬で空気のごみになった。


「でも、目はつぶれた。……ああクソが」


 つぶれたところの上から目が増える。


「絶望してないで急いで逃げるよ」


「ああ」


「パクパクパクパク」


「いちいち不快だな。あんにゃろー」


 そういいつつ近くにある砂岩を再び投げる。


「じゃま」


 手ではじかれた砂岩は、粉みじんになる。


 走りながら、目くらましにでもと思ったが、


「ふう。見つけた」


 息で吹き飛ばしたようだ。すぐに見つかってしまった。


「そろそろおわりいいいいいいいいいいい!!! よおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 そういって化け物は、


「油断した!!! 逃げtグハッ!!!」


 彼女をつかみ、握り、投げ捨てる。


「ペネロ!!!」


 血だらけになった、彼女を横目に、


「やっと二人きりになったね」


 と不快な声で言われた。


 これ、まずいな。彼女を助けるにも、場所が遠い。


 でも、助けてくれたやつだ見捨てるわけには行けないしな。


 ㎝のところをよけながら考える。かすりながら。


 でも、


「隙がない」


 下手したらこっちが死ぬ。


 見捨てるしかないのか……


 いやだ。それだけは。


「隙が」


「あああああああああああああああああああああああ」


 叫ぶ化け物のでかい手が、俺を囲む。


「くっ」


 距離が円形で、一気に縮まっていく


 ダメだ。


 目をつぶってしまった。


 何もできなかった。


 約束が、


 あったのに、


 相馬戸の様に、流れていく過去の記憶。


 その時さっき見た光景が。


 ああ。


「思い……出した」


 彼女は正しかったんだと、直感的に理解した。


 俺は、約束を守るどころか、大事な記憶を忘れてしまっていた……。


 彼女の名前を。


 ティアラーペネロを。


「かんしゃをこめてええええええええええええええええええええええええええええ!!! 


 いただきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい「十字架剣〈ソード〉モード!!!」


「え?」


 死んだ。


 そう思ったのに、急に倒れる。


「クソ。遅かった」


 俺の目の前に、武器を持った人影が見える。


「それにしてもあいつは……はっ、ざまあない。悪魔が私の和也にちょっかいかけたからこうなるんだよ」


 男の声にシスターのような恰好をしたやつ。


 そんなの、俺が知っている限り一人しか知らない。


「はあ、性格」


「遅くなったごめんね」


 コイツ……


「任せて大丈夫か?」


「私をなめないでほしいな」


「信頼してるぞ。親友」


「今はそれで許すよ」


 ムッとする彼を無視して、


「じゃあ、行ってくる」


「ちょ、なんで!? 家は反対側でしょ」


「あいつも一緒に連れて行くんだよ」


「いや見捨てなよ。盾は多いほうがいいし」


 盾って。


「まあ、いいわ行ってくる。適当に戦っててくれ」


「もう……」




 数分後。


「なんかあっさりいけたな。というかあれで起き上がらないとか逆に心配なんだけど。手ごたえなかったし。……バーストモード」


 手、足、胴体、顔、に向かって数発撃つ。


「追撃しても反応なしか。これは本格的に」


 ぐぐぐと音が鳴る。


「どこどこどこどこ? ごはんどこおおおおおおお」


「なわけないよなあ!!!」


 起き上がる化け物を見つめながら、十字架を鎌〈サイス〉モードに変更する。


「Semper unum sumus, quod materia non morietur.〈死ぬことなんざ関係ない私たちはずっと一緒だ。〉」




「案外あっさりいったな」


 血だらけの彼女を担ぎながら走る。


 とは言え、あの場所から距離を取る。


 あいつが勝つことを信じている。でも、戦闘範囲が拡大しないとも限らない。


 俺がいることがかえって邪魔になる。


 だから離れる。


「ん?」


「おっ、気が付いたか? ペネロさん」


「……さっきは呼び捨てだったじゃん」


「はは。ごめん。……俺、一部だけど思い出したよ」


「……ほんとに」


「うん。……出会ったときとかはまだだけど。でも、大事な約束は思い出したよ。なんでこんな大切なこと忘れていたんだろうって自分が嫌になった」


「そんな……自分を卑下しないでよ。10年も前の記憶なんてふつう覚えていないんだしさ」


「階段上っているとき、好きな人の話したよな」


「うん」


「あれはお前のことなんだ」


「ー嘘でしょ」


「嘘じゃないほんとのことさ、ペネロ。……いや」


「やめて。悪魔を知っているなら、私の真名を呼ぶことがどれほどイケないことかわかっているでしょ」


「俺はそれでいいよ」


「私は貴方とそういった関係になりたくない」


 俺らが、言い合いをしていると轟音が鳴る。


「「!?」」


 煙が立っている壁のところを見ると、


「咲耶!!!」


「がはっ、っ……3分の2は壊したけど」


「もういい立つな。しゃべるな。じっとしてろ」


「誰が戦うんだよ。……私が、お前を」


 そういってけれは気絶する。


「……なあ、ペネロ。立てるな?」


「カズヤ!!! お前……っああ」


 負ぶっていた彼女を立たせる。


「俺だってこんなこと不本意だ。お前に負い目を背負わせることになる」


 手が一本あとは胴体の化け物が近づく。


「でも、やらなきゃみんな死んでしまう。俺はそれが嫌なんだ」


「……クソ」


「受け入れてほしい。ほんとにごめんだけど」


「……お前の命にかかわることなんんだぞ」


「そこは信じているから大丈夫だ。お前が、調整してくれるってな」


「……信頼するとか間違えてるでしょ。私は悪魔だよ」


「好きな人を信じない男がいるわけないだろ」


「……(仮)だから」


「指輪に誓うよ」


「っ、私の名前を呼んで!!!」


「ああ。俺の魔力を使え!!! ラーペ!!!」




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