第59話 特別なんだよ
食事の前に、わたしはリムを誘う。
案の定、一人になったリムは――お兄様に嫌われたかも知れない――と一人、部屋で落ち込んでいた。
(
彼女の見た目はわたしと同じくらいだが、精神年齢はずっと幼いのだろう。
手を引いて、お風呂まで連れて行き、脱衣所で服を脱がせる。
お風呂場で身体を綺麗にしてあげると、いつもの調子を取り戻したようだ。
「で、良かったの?」
とリム。色白の細い腕を湯船から出す。
レン兄との戦いで、あんなに激しい殴打が可能だったとは、未だに信じられない。
(
浴槽に
「サヤちゃんとは話をしたよ――でも、答えが出るような事でもないしね……」
彼女がわたしのお兄ちゃんを殺した理由。
簡単に言えば、世界を救うためだ。
わたしの元居た世界は、既に
ゆっくりと腐り落ちるのを待つだけの世界。
わたしも【怪異】であり、【契約】を行っている以上は、世界を侵食している
ただ、【怪異】としても未熟なわたしでは、影響を及ぼす範囲は高が知れている。
結果、世界を侵食する程の
しかし、
本当に
でも、世界が延命し、浄化するには十分な時間であり、最善手といえた。
(本来なら、問答無用で殺されていても
どうやら、お兄ちゃんはそうならないように、サヤちゃん達に協力していたらしい。
(結局、間に合わなかった訳だけど……)
(その正体は、
「わたしが早くに気が付いて、協力していれば……」
――お兄ちゃんは『死ぬ』という選択肢を選ばなかったのかな?
「過ぎた事を気にしても仕方がないわ――あたしが言えた義理でもないけど……」
とリム――そうじゃなくて――と続ける。
「あのルカという青年の事よ」
(
ショーコの事もそうだが、わたしはルカ君をあの世界に置いて来た。サヤちゃんが世界の浄化を行い、ネムちゃんが元の世界へと戻してくれる
今頃は二人とも、元の世界で日常の生活を送っているだろう。
「わたしの事なんて、記憶から消えているよね」
言葉にしてみて、初めて実感する。
(
「ルカ君はモテるみたいだし、きっと
アハハ――と笑うわたしに、
「それはないわよ……」
とリム。てっきり――そうかもね――と言われると思っていた。
「恋人……だったんでしょ?」
と質問する。どうやら、気を
いつもハッキリとモノを言うリムにしては珍しい。
(はて? リムが他人の
その
もしかすると、レン兄との戦いの後、わたしを燃やしてしまった事を反省しているのかも知れない。
「良くはないけど――仕方がないよ」
わたしの返答に、
「あたしだったら、お兄様と離れ離れになるなんて――きっと、死んでしまうわ」
(確かに……リムだったら、そうかも知れない)
「わたしだって、納得はしてないよ」
「そうなの?」
人間は『イエス』か『ノー』、『0』か『1』ではない。
「でもね、ルカ君にはお母さんがいるから――」
ルカ君が居ない世界で、あの人は一人で暮らす事になるのだろうか?
あの人なら、新しい家族を見付ける事が出来る気もする。
でも、わたしの
誰の言葉かは知らないけど――愛に
お兄ちゃんの事があったからかも知れないが、
「待っていてくれる家族が居るのなら、無事に帰ってあげて欲しいよ……」
そう言ったわたしが落ち込んでいるように見えたのだろう。
「ま……まぁ、今のユズに取っては――ここが家……」
わたしはそんなリムに抱き着くと、
「わたしには、サヤちゃんとヒナタちゃん、シキ君にレン兄にトーヤが居るからね!」
と告げる。リムは――ちょっと、危ないわよ!――と慌てた。
「それにね……とっても手の掛かる妹が出来たし!」
わたしは――ギュッ――とする。
「誰が妹よ!」
そう言って抵抗するリムに、
「だからね――特別なんだよ」
とわたしは告げる。
「リムもわたしも、普通の人間じゃないけど――誰かの特別になれる――そう思ってくれる人達が居る特別な女の子だよ」
「もうっ、どうしてユズはそういう事を平気で……」
そう言って、リムはわたしを引き離すと、
「――って、あの台詞……聞こえてたんじゃないの!」
また怒られた。
普通の人間――リムの言った言葉が、ずっと引っ掛かっていた。
答えようと思えば、
そんな事はないよ――というのは簡単だ。
きっと、人間関係なんて、上っ面だけでいいのかも知れない。
でもね――
「リムが居てくれて良かった――本当にありがとう」
わたしの場合は、ちょっと違うみたいだ。
人と人とを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます