第六章 暫しのお別れだね
第55話 もう分かっているわ
(うーん、サヤちゃんに話があったんだけどな……)
「準備はいいかしら?」
「おうよ、いつでも来い!」
リムとレン兄が向かい合って立っている。
【
だが、早々に決闘とは、
「いいの? サヤちゃん……」
わたしの問いに、
「仕方ないわ」
とサヤちゃんは答える。
「いつもなら時や場所に構わず……勝手に始めてしまいますからね」
シキ君は――困りました――と苦笑する。
どうやら、サヤちゃんに立ち合いをお願いしたのは初めての事のようだ。
更に場所は訓練用の部屋を指定した。
――この部屋も、お風呂と同じで不思議空間みたい。
(城内にある部屋の
「成長したわね」
「そうですね……成長しました」
サヤちゃんとシキ君は
破損個所は自動修復されるとはいえ、苦労していたのだろう。
(そういえば、わたしがこのお城に来た日もそうだった……)
二人は
その事を考えると――成長した――と言えなくもない。
――でも、結局ケンカだよね。
(素直に感心するのもどうかと思うけど……)
「でも、ここ最近は破壊――ケンカをしていなかったわね」
「そうですね……ユズっちが間に入ってくれていましたから」
――今、サヤちゃん『破壊』って言わなかった?
(まぁ、いいや……)
――それよりも二人とも、もっとわたしに感謝するんだよ!
実際口にすると――調子に乗らないの!――と注意されそうなので、思うだけにしておく。
そもそも、【術】を使ったケンカに――わたし自身も巻き込まれたくなかった――というのもある。
リムと一緒に行動する事が多かった――というのも要因の一つだろう。
この辺はサヤちゃんも計算済みだ。
それよりも――
(心配なのはヒナタちゃんだよ!)
二人のケンカを見て、いつもオロオロしている印象がある。
しかし、今はサヤちゃんとシキ君が居るから大丈夫だろう。
胸元を押さえるように手を当てているが、ヒナタちゃんは落ち着いた様子だ。
(良かった……)
いや、やはり不安だったようだ。
わたしの手を握ってきたので、わたしも握り返す。
(小さく可愛らしい手だけど、わたしよりも力が強いんだよね)
――
「じゃあ、行くわよ」
とサヤちゃん。右手を上げると――始め!――そう言って、手を振り下ろす。
最初に動いたのはリムの方だった。
いつものお
気合も十分――といったところだろう。
一気に距離を詰めると、素手による連打と――時折、
(意表を突く作戦なのかも知れない……)
だが、それはレン兄の得意とする分野だ。
受ける、
「アレじゃ、
胸が揺れて大変だし――とわたしはトーヤ少年に
彼は少し嫌そうな顔をしたが、
「二人とも【術】を使うのは苦手だからね」
今までは『
(
「そう言えば、トーヤは一瞬で氷の壁を造り出していたよね?」
「ボクの場合は、前
トーヤ少年に言われ、わたしは二人の戦いの方に集中する。
「あれれ? リムのスピードが上がってない?」
最初は余裕な対応をしていたレン兄だが、次第に
「【術】を外部にではなく、内部で
トーヤ少年が教えてくれる。
(なるほど……【火】を攻撃じゃなくて、運動エネルギーとして使っているのか!)
次第にリムの手足が赤く光り、身体の
一方で、レン兄の身体には
(
わたしが首を
「【土】の【術】で、身体を
【術】の精度が高いと、見る能力が低い場合、認識する事が出来ない――と付け加える。
(ううっ……そういえば、教えてもらった気がする)
【術】――つまり【怪異】や【異能】を見たり、聞いたり、感じたり出来る事が、【術者】としての条件である。
ただし、その能力も、人によって
(わたしの場合は、声を飛ばすのが得意みたいだけど……)
シキ君からは制御出来ていないため――練習が必要ですね――と言われた。
(【異能】を見るのも苦手だし、これから練習しなくちゃいけないよ……)
トホホ――と落ち込んでいる場合ではない。
(今は二人の戦い方を見て、勉強しなくちゃ!)
気を取り直して、集中すると、
「へぇ……
とレン兄。苦し
(つまり――まだまだ余裕――という事だよね)
「レン……もう分かっているわ」
もう一つの【術】も使いなさい――とリムは落ち着いた態度でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます