第48話 一緒に戦って


(ぬ、抜けない……)


なに、バカな事をやっているんだ?」


 とわたしを引き抜いてくれたのは、トーヤ少年だ。


 ――はわわっ!


(生きていたのね……良かった!)


 ヒナタちゃんにおどろいた様子はない。


(双子だから、なにか二人の間にしかないつながりでもあるのかな?)


「重いな……また、太ったんじゃないのか?」


(いやん、何処どこさわってるの? エッチ♥)


 通じてはいないのだろうが、なにかを感じとったのだろう。


「フンッ」


 トーヤ少年はまるで汚いモノをあつかうように、わたしを放り投げた。


 ――ふぎゅっ!


(もう、危ないじゃない!)


 なんとか無事着地したわたしは抗議をする。


「大丈夫? お姉ちゃん」


 とヒナタちゃんが駆け寄って来た。

 そして、鞄からハンカチを取り出して、わたしの角をいてくれる。


(ああ、ハンカチが汚れちゃうよ……)


 ――でも、ありがと♥


 言葉は通じないのだろうが、雰囲気は伝わったのだろう。


「どういたしまして」


 えへへ――とはにかむヒナタちゃん。


(さて、これでルカ君も……)


 見ると、ルカ君は床にくずれるように倒れていた。


(えっと、急いで駆け寄らないと……)


 ――でも、その前に!


 わたしは人間の姿に戻ると同時に、服を生成した。

 シキ君は血を媒介ばいかいにしていたが、わたしの場合は影を使う。


(ううっ、あまり大きい面積のモノは作れないんだよね……)


 ホルターネックといっただろうか? 首からひもで吊るすような真っ黒なドレスになる。形状はサンドレスが近い。


なんだか、すごいいスースーする)


 胸元が大きく開いている事と、下着がない事が理由だ。

 折角せっかく作った服から、胸がこぼれ落ちそうになっているのが、自分でも分かる。


「お前に羞恥心しゅうちしんはないのか?」


 とトーヤ少年。ヒナタちゃんも思わず目をおおうような仕草で、


「お姉ちゃん、すごい!」


 とおどろく。


(うーん、流石さすが不味まずかったかな……)


 そうは思っても、今のわたしの能力では、これ以上の面積は確保出来そうにない。


「ちょっと、待っててね……」


 わたしは紅間あかまがボロボロにした服をあさる。


 ――あった!


「パンツは無事だよ」


 後、靴も!――とわたしは下着をかかげた。

 残念ながら、上半身――特に胸の部分はダメだ。


(よっぽど、うらやましかったのかな?)


「重たくて、肩がるだけなのに……」


「そんなモノ見せなくていいから、さっさと穿け」


 とトーヤ少年。彼はまだ、なにかを警戒している様子だった。


「うん、分かった! でも、トーヤが無事で良かったよ!」


 わたしの言葉に――それはこっちの台詞だ!――トーヤ少年は返す。

 どうやら、彼なりにわたしの事を心配してくれていたようだ。


 嬉しかったので、素直に抱き着こうと思った。

 だが、今の姿では裸で抱き着くようなモノなので一旦保留にする。


穿いたよ!」


 とわたし。


「だから、いちいち報告するな!」


 トーヤ少年は顔を真っ赤にしている。


(いや、空があかいから、そう見えるだけかな?)


「ヒナタちゃん、ゴメン……ルカ君をてもらってもいい?」


 彼女はうなずくと、わたしと一緒にルカ君の元へと来てくれた。

 気を失って、ぐったりとしている彼を壁にもたれ掛からせる。


 ヒナタちゃんはルカ君の顔を両手で持つようにれると、治癒術を使ってくれた。

 淡い光が彼の身体を包む。


 ルカ君の頭から、黒い煙のようなモノが抜けていくのが見えた気がした。


「ううっ」


 とルカ君。


(良かった! 取りえず、目を覚ましたようね……)


 一安心する。しかし、彼の意識はまだ朦朧もうろうとていた。


「早く、逃げた方がいい!」


 とトーヤ少年。見ると、倒れていた紅間が立ち上がっていた。


 ――うんん、違う!


 立っているのではなく――浮いている――といった感じだ。

 首輪が紅く光っている。


(あれ? あんな首輪してたかなぁ……?)


「ねぇ、ルカ君……立てる?」


 わたし自身も、嫌な予感しかしない。

 ルカ君には悪いが、無理にでも移動する事にした。


「ああ……」


 ルカ君は答える。まだ具合が悪いのか、フラフラとしている。

 それでも壁に手を突き、頑張って立ち上がってくれた。


 わたしはそんな彼に肩を貸す。ヒナタちゃんも支えるのを手伝ってくれた。


「あがががががががぁっ!」


 紅間が急に苦しみ出す。

 ヒナタちゃんはトーヤのそばに行ってしまった。


(危ないよ?)


 止めようにも、今のわたしはルカ君を支えている。

 それにお腹も減っていたため、力が出ない。


「くっ、無様よね――くやしいけど、アタシはここで終わりみたい……」


 と紅間――どうやら、まだ生きていたようだ。

 うらめしそうにわたしをにらみ付けてくる。


 しかし、わたしは彼女を殺していなかった事に、何処どこか――ホッ――とした。


「がぁっ! 貴女あなたの事は大嫌いだけど――ルカきゅんを逃がして……」


 言い終えるとほぼ同時に、紅間が消えて行く。

 突如現れた闇に、身体が少しずつ食べられているようだ。


 バキッ! ボキッ! グシャッ!


 足、腕、頭――不規則に身体の一部が闇へと消えて行く。


「トーヤ、一緒に戦って」


 とヒナタちゃん。


「いいのか?」


 トーヤ少年の問いに、ヒナタちゃんはうなずく。


「お姉ちゃんは、彼氏さんと逃げて――」


 そう言ったヒナタちゃんの瞳は、いつもの愛らしいモノとは違っていた。

 覚悟を決めた――そんな瞳だ。


 ヒナタちゃんは鞄から短刀を取り出す。

 すると、トーヤの姿はそれに吸い込まれるように消えてしまった。


「がぁっ! ち、ちくしょーっ! ちくしょーっ!」


 ほぼ同時に、断末魔がひびく。

 すべて消えてしまった――紅間が存在していた空間。


 その闇から、帽子をかぶった少女が現れる。

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