第四章 そして、世界は紅く染まる

第34話 詳しく聞かなくては!


 それは一週間程前の出来事だった。

 【偽りの世界】へと渡る前に、わたしとリムは再び【扉】を使い世界を渡る。


 リムとしては、シキ君と居られる時間が減るため、あまり気は進まないのだろう。

 内心では嫌なのかも知れない。だが――


 お兄様の頼みなら仕方ないわね――そう言って、わたしに付き合ってくれた。


 ――分かりやすいよね……。


(時々、不憫ふびんに思えてしまうのは何故なぜなんだろう?)


 さて、向こうの世界――


(【真の世界】――とでもいっておこうかな?)


 その【真の世界】の人間からすれば、彼らが存在する以外の世界は【異界】でしかない。よって、自分達の世界に名前を付ける必要はないのだろう。


「んー! いい天気だね☆」


 【扉】である鏡が設置された大きな屋敷を出て、門をくぐった先――長い階段を下りながら、わたしは身体を伸ばすとそう言った。


 青い空、白い雲――心地好い風。


かすかだけど、海のにおいがする!)


 前回の反省点を踏まえ、今回は日焼け止めのクリームも塗ってきている。

 この間は、そこまで日差しが強いと思っていなかったので、現地調達したのだ。


 どうやら、ここは南の島でリゾート地のようだ。

 山と海が近く、海岸へ出ると観光客の多くが水着で歩いている。


 勿論もちろん、それはこの島にとって偽りの姿だ。この島の真の正体は、月神家が管理する――人類と【怪異】が共生する場所――である。


(えっと……前回、ネムちゃんに教えてもらった話だと――)


 この島における勢力は、主に三つに別れているらしい。


 一つ目はこの島の管理・運営を行う月神家だ。

 ここでは【神子】の一族と呼ばれている。


 リゾート地にカモフラージュしたり、学校を用意したりと外部から人を集め、お金や物を動かしているようだ。


(要は経済を動かしているのかな?)


 二つ目は【鬼】の一族と呼ばれている人達だ。

 主に外敵との戦いや、この島の治安維持に尽力じんりょくしている。


(警察みたいなモノかな? つまり、軍事よね?)


 島の外から来た【怪異】は、まずは彼らを頼るらしい。

 獣人や妖怪と呼ばれる異種族の面倒も見ているそうだ。


(人間と【怪異】の間に立つ、緩衝材みたいな役割もあるのよね)


 三つ目は【魔女】の一族――ネムちゃんの事だ。

 もっとも数は少ないが、強力な能力を有している。


 島の結界の管理や神に関する祭事、儀式を取り仕切っているらしい。

 責任は重大で、全員が女性である。


 ネムちゃんは――特別な生い立ちの者が多い――と言っていた。


(多分、政治を仕切ってるんだよね……)


「上ばかり見ていると、転ぶわよ」


 とリム。わたしは――大丈夫!――と答えた後、


「でも……心配してくれて、ありがと☆」


 そう言って微笑んだ。


「あ、ネムちゃんも久しぶり! どう、元気にしてた?」


「問題ない」


 ネムちゃんはそう言って、杖をクルリと回転させた。

 すると魔女とんがり帽子と外套マントは消え、学校の制服姿になる。


(いつ見ても不思議だ)


 ――そして、大きい!


 ロリ巨乳という人種だろうか?

 リムは両手を顔でおおい、シクシクと心で泣いている。


「だから、来たくなかったのに……」


「はいはい、前見て歩かないと転ぶよ」


 わたしはリムの手を取って歩く。

 ネムちゃんは相変わらず、前髪で顔を隠していた。


勿体もったいないなぁ……)


 そんなわたしの視線に――いや、リムの落ち込み具合に気が付いたのだろう。


「私、何かした?」


 首をかしげるネムちゃんに、


「うんん――リム自身の問題だから、気にしないで……」


 とわたしは答える。


(やっぱり……わたし、そんなに大きくないよね)


 ――ちょっと、足元が見えないだけだもんね!


「今日も、買い物?」


 ネムちゃんの問いに、


「そ、近い内に【偽りの世界】に行くからね!」


 今の内に息抜きだよ☆――とわたしは答える。


 正直、【黒魔術】の修行を始めたけど、上手くいっていない。

 そのための気分転換も兼ねていた。


 教えてくれているシキ君も、【黒魔術】は最初から使えたそうだ。

 よって、他人ひとに教えるのは得意じゃないらしい。


 わたしとしては――【魔女】であるネムちゃんにヒントをもらえればなぁ――とも考えていた。


 ――だけど……今日来た目的は、それだけじゃないんだよね!


 ニッヒッヒッ――とわたしは笑う。


「ちょっと、ユズ……気持ち悪いわよ」


 とリム。ネムちゃんも悪寒を感じたのか、立ち止まり、わたしから距離を取った。


 ――もうっ! 二人して、そんなに警戒けいかいしなくてもいいじゃない!


(プンスコ!)


 ――いや、それよりも……。


「裏は取ってあるのよ、ネムちゃん!」


 わたしは――ビシッ――と指差す。


「前回、話してくれた先輩とは、もう付き合ってるの?」


 【魔女】の一族の血を引く青年で、【神子みこ】の【守人もりと】となるべく、この島に来たらしい。


 新人の【魔女】であるネムちゃんが、しばらくの間、面倒を見ていたそうだ。

 年齢はわたしと同じ十七歳。高校生で学園の寮住まい。


 まだ未熟な彼は、ネムちゃんと二人っきりで【術】の修行を行っている――と教えてくれた。


 ネムちゃんは慌てて、首を横に振る。

 どうやら、まだのようだ。


(でも、その様子だと……ネムちゃんの方は気があるという事よね!)


 ――これは是非ぜひ、詳しく聞かなくては!


 そう、この時のために――わたしはサヤちゃんやシキ君達から情報を集めたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る