第49話

そこにいたのは体が透けて半透明になった男の子だった。



男の子は一生懸命ドリブルをしてゴールにめがけてボールを放っている。



その様子を見た瞬間、コウダイくんが息を飲むのがわかった。



「嘘だろ、マジでいるじゃん……!」



自分でも気がつかないうちに、小声になっている。



あたしの腕を痛いほど掴み、体育館にいる男の子を凝視している。



「でしょう?」



あたしはいい気になって言う。



「これって写真とか撮ってもいいのかな?」



「悪い霊じゃないから大丈夫だよ」



「やった、ラッキー」



コウダイくんの顔はさすがに青ざめているけれど、心の底から怖がっている様子はない。



「本当は好奇心でこんなことしちゃダメだよ?」



撮影をするコウダイくんへ向けて言う。



今はあたしが出現させた幽霊だからいいけれど、万が一別の場所で本物に遭遇したら……と、懸念したのだ。



まぁ、幽霊なんてあたしは信じてないけどね。


「俺も学校の七不思議全部見てみたいな。その後自分がどうなるかも知りたいし」



「それはあたしを見ればもうわかるんじゃない?」



あたしは自分を指さして言った。



「あたしはこれで七つ目だよ? だけどなにも起こってないんだから噂はただの噂なんだよ」



そう言った時だった。



途端に体がズシリと重たくなった。



と、同時に全身に鳥肌が立ち、気分が悪くなった。



こんなときに、どうしたんだろう……。



その場に膝をついてしまいそうになるのをグッとこらえる。



コウダイくんがあたしの足をジッと見つめていることに気がついた。



「どうしたの?」



質問しながら自分の足に視線を落とす。



その瞬間、自分の目を疑った。



あたしの両足が微かに透けてみえるのだ。



目の錯覚?



目をこすり、もう一度確認する。



しかし、透けてみるのは変わりなかった。



それ所か、さっきよりも透けているように見える。



自分の足の下にある地面が見えるのだ。



「な、なにこれ……!」



声を上げて後ずさりをする。



土を踏むジャリッという足音がする。



足の裏の感覚もある。



それなのに、あたしの足はどんどん見えなくなってきているのだ。



「これが七不思議を全部見た結果?」



そんな声が後方から聞こえてきて、ハッと息をのんで振り向いた。



そこに立っていたのはノドカだったのだ。



ノドカは笑みを浮かべてあたしを見つめている。



「ノ、ノドカ!?」



どうしてノドカがここに?



どうしてあたしの体は透けているの!?



恐怖と混乱で頭の中はパニックだ。



そんなあたしにノドカがゆっくりと近づいてきた。



その手には透明な糸のようなものが握られている。



「ピアノ線だよ」



ノドカはそう言って糸をあたしへ見せてきた。



「え……?」



「さっき、ミキコがひっかかってこけたのはこれが原因」



「ピアノ線って……どうしてそんなものが?」



「まだわからないの?」



ノドカはそう言うとポケットからあたしのスマホを取り出したのだ。

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