第31話
☆☆☆
「桜翔太くんじゃん!」
コンビニで合流するとノドカは目を見開いて言った。
「ちょっとノドカ、声大きい!」
ノドカのせいで店員やお客さんたちがこちらをチラチラ気にし始めてしまった。
「ご、ごめん。つい……」
「行こう」
あたしたちは逃げるようにコンビニを出る。
「でも、本当にびっくりしたよ」
落ち着いてからノドカは改めて言う。
「えへへ。実は昔からファンでさ、桜翔太くんしかいないなって思ったんだよね」
隣りを歩く桜翔太くんは、まだあたしの手を握り締めている。
「あ、そうだ。ノドカの彼氏も紹介してよ」
コンビニから逃げるように出てきてから、自己紹介もまだできていなかった。
「そうだね。彼氏のコウダイだよ」
「はじめまして、村井コウダイです」
写真で見たイケメンがさわやかな笑顔でお辞儀してくる。
あたしは少しだけどきどきしながら「ミキコです」と自己紹介をした。
「ミキコちゃんのことはノドカから聞いてるよ。クラスで一番仲がいいって」
あたしはチラリとノドカを見た。
ノドカは笑顔でコウダイ君のことを見つめている。
「そっちはミキコちゃんの彼氏? すっごいイケメンだね」
「そうです。名前は……えっと……」
まさか桜翔太くんだと紹介するわけにもいかなくて、困ってしまった。
すると桜翔太くんはコウダイくんへ手を差し出して握手をした。
「はじめまして、ミキコの彼氏の翔太です」
「コウダイです。よろしく」
イケメン2人がにこやかに挨拶をする様子に頭がクラクラしてきた。
「じゃ、行こうか」
「そ、そうだね」
それからのダブルデートは夢の中のようだった。
道行く人たちがあたしを見て羨ましそうな顔をする。
時には「あの人、桜翔太くんにそっくりじゃない!?」という声が聞こえてきてハラハラしたけれど、アプリで作った桜翔太くんは完璧にあたしの彼氏を演じてくれていた。
「ねぇコウダイ、この服似合うんじゃない?」
4人でショップへ入ると、すぐにノドカがコウダイくんの服を選び始めた。
長身なコウダイくんなら、どんな服を着ても似合いそうだ。
「いいね。この服気に入ったよ。次はノドカの服を選んであげる」
「ありがとう」
そう言うと2人はさっさとどこかに行ってしまった。
引きとめようかと思ったが、せっかく桜翔太くんと2人きりになれたのだから楽しまないと損だ。
「しょ、翔太くんにも服を選んであげるよ」
全身がカッと熱くなるのを感じながら言う。
「ありがとう」
翔太くんは笑顔で答える。
翔太くんだってどんな服でも似合いそうだ。
あたしは白いTシャツを手に取って「これとかどう?」と、聞いてみる。
「かっこいいじゃん。気に行ったよ」
その言葉に嬉しくなって1人で盛りあがってしまいそうになる。
どうにか嬉しさを押し込めてTシャツをレジへ持っていく。
「これはあたしからのプレゼントにするから」
そう言って財布を出そうとしたところで、翔太くんがあたしの手を掴んで止めていた。
「どうしたの?」
「それより、ミキコの服を見に行こうよ」
「でも……」
翔太くんはTシャツを見つめると、左右に首を振った。
まるで『いらない』と言われているようで、心がざわつく。
どうして?
そう質問する前に、気がついた。
そうだ。
翔太くんは今日のために出現させた偽物だ。
長くても24時間経過すれば自然に消滅してしまう人間。
Tシャツなんて買っても、意味がないんだ。
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