第72話元のオルガン 春麗とのデュオ 元はカントリーを歌う

元は教会に入り、オルガンで聖歌を弾き始めた。

春麗は、腕を動かす時の元の表情を見る必要があるので、すぐ隣に寄り添っている。


さて、奈穂美としては、初めて元の「音楽」を聴く。

そして、以前、美由紀に言われたことを、そのままに実感する。

「すごい・・・こんなに?」

「プロ以上だよ、これ」

「私・・・もう元君の前で楽器を見せない」

「元君から見れば、私なんて、幼稚園以下」


相当驚くやら、落胆の中で、深沢講師のピアノを思い出した。

「ただ、譜面通りで」

「でも、ミスタッチが多かった」

「それなのに、生徒がミスタッチをすると、顔を真っ赤にして怒った」

「彼女がお手本って弾くけれど、全然面白くなかった」

「元君とは、別格も別格だよ」

「元君も、それをわかっていたかも」

「何もわかっていないのは、深沢先生」


美由紀は、春麗に注目している。

「スタイルがいいなあ・・・」

「マジで完敗」

「料理も上手で」


聖歌の一曲目が終わり、元は春麗の顔を少しだけ見た。

春麗が頷くと、元はカッチーニのアヴェマリアの前奏を弾き出す。


奈緒美は、弾き始めで、身体の力が抜けた。

「すごい・・・はぁ・・・」


美由紀は、春麗の歌い出しで、目がウルウル。

「きれい過ぎる・・・元君と春麗は天使様?」


奈穂美

「別世界?」

美由紀

「うん・・・これを聴かせれば・・・絶対に救われる人がいる」


元と春麗は一曲だけで終わり、パイプオルガンから降りて来た。

そして、ピアノの前で、話し合っている。


「重過ぎるかな?」

春麗

「うーん・・・歌いやすいけれど」

「春麗は、時々、音程が下がる」

「もっと、声を張る時は張って」

春麗

「ごめん、ブレスが甘いかも、本番では何とかする」

「軽い曲もやろうか?」

春麗

「うん、ピアノ弾いて」

「杉本さんが何曲か持って来たよ」


元は、ピアノに置かれた楽譜をいくつか見る。

「懐メロ系がいいの?」

春麗

「ニューシネマパラダイスは歌いたい」

「それ以外は・・・古いなあ・・・信者向けだから」

「ポストマンは古いなあ・・・」

「カーペンターズメロディー?これも古い」

「イマジン、ビリジョ?やってもいいけど・・・古い」

「どうせ古いなら・・・」


元は少し考えた。

「春麗、エドウィナ・ヘイズの曲って知っている?」


春麗は、キョトン顔。


その春麗を見て、元はそのままピアノを弾き出した。

カントリー風の前奏に合わせて、歌も歌い出す。


春麗は、口を押えて、驚いた顔。

美由紀と奈穂美も驚くばかり。


美由紀は身体を震わせながら、ポツリ。

「マジに・・・声がきれい・・・歌・・・上手過ぎ・・・歌でもプロ?」


奈穂美の目に、光が宿った。

「曲の名前を知りたい、覚えて一緒に歌う」

「歌なら、何とかなるかな」

奈穂美は、立ちあがって元に向かって歩き出した。

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