第51話教会付属別室にて(5)病室を追い出された奈穂美
マスターが苦し気な顔で、吉祥寺のクラブから元が出て行った状況を詳しく話すと、マルコ神父は、大きく頷いた。
「マスター、ご心配には及びません」
「確かに、元君は、一時的に感情が高まって、自暴自棄の行動を取りました」
「それで酷い暴行や、お金の被害を受けました」
「しかし、今は救われています」
「これも、神のご配慮」
「神のご配慮があり、元君の回復と、今後のために、我々が集められたと思うのです」
マスターは、そのマルコ神父の言葉で、肩の力がスッと抜けたような雰囲気。
また深く頭を下げている。
探偵の中村が手を上げた。
「元君の事情聴取があると思う」
「ビデオを見る限り完全な被害者」
「ただ、元君は慣れていないから、俺が付き添う」
シスター・アンジェラが同意した。
「それは助かります」
「たとえ自分に非が無くても、元君は不安でしょうから」
他の面々も異論がないらしく、一様に頷いている。
マルコ神父が、全員を見た。
「警察関係は、中村さんにお任せをして」
「我々も、出来る限りのお手伝いをしましょう」
また全員が頷くと、マルコ神父は続ける。
「次には、元君の健康の回復」
「数日程度はかかる、と思います」
「それについては、教会病院の春麗看護師に任せます」
「そして、回復してからのことになるのですが」
マルコ神父の言葉がここで一旦、止まった。
そして、少し声も強く大き目。
「元君の音楽の道を閉ざしてはならない」
「その手段を考えたい」
音楽雑誌社の杉本が、何かを思いついたらしい。
手を上げて、話し始める。
「元君は音大にも進まず、現状は好き勝手に弾いているだけ」
「ただ、その音楽は、すこぶる価値が高い」
「宝の持ち腐れです」
「それで、元君次第ですが、動画サイトに流す、そんな手段もあります」
「それなら、尾高大先生でも、圧力もかけられません」
マスターが賛成の意思を示す。
「俺のクラブで弾いてもらって、それを流してもいいよ」
「クラシックでもジャズでも、元君がやりたいように」
シスター・アンジェラは、うれしそうな歌。
「その手がありましたね」
「それなら、教会でも、その機会を作ります」
「オルガンもありますし、もちろんピアノもあります」
教会付属病院の別室に集まった全員が、笑顔を取り戻す中、マルコ神父が話をまとめた。
「ここにいる人全員が協力して、元君をサポートしていきましょう」
「私としては、元君の抵抗も予測していますが、粘り強く」
さて、別室では、そんな話が進む中、奈穂美は元の病室から一旦出されていた。
理由としては、元のシップ張りと着替えのため。
しかし、奈穂美は、面白くない。
「春麗の言い方がきつい」
「それは見るのも恥ずかしいけれど」
「元君も、まだいるの?って感じだったし」
「じゃあ、何なの?春麗には身体を見せるの?」
「それは看護師だけどさ、まるで私がお邪魔虫?」
「理屈ではわかるよ、でもさ、気に入らない」
奈穂美は、あまりに気に入らないので、母律子に「状況説明メッセージ」まで送った。
しかし、慰められるどころか、逆だった。
「それはプロに任せるのが当たり前」
「そんなこともわからないの?だからお子ちゃまなの」
「あなたも、まだまだね」
また、気を揉ませることに、元の病室のドアは、なかなか開かないのである。
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