第20話探偵中村の調査(2) マスターとミサキの対応

「ところでね、中村さん」

杉本女史は、また声を落とした。


探偵中村も、身構える。


杉本女史

「都議の父、大指揮者、楽器メーカー、コンクールのイベント会社はリンクしていましてね」


探偵中村は、予想がついた。

「持ちつ持たれつかい?楽器メーカーと、イベント会社から資金が都議の父に回る」

「金額はわからんが、大指揮者にも資金が渡る」

「都議は、それを政治資金に」

「大指揮者は主に遊興資金か、女を侍らすのが好きそうだから」


杉本女史は頷く。

「さすが元敏腕刑事、ご明察です」

「ただし、知り合いの全国紙の政治記者によると、報告書には記載がないらしくて」

「大指揮者は、コンクールのたびに、遊興が派手になるとか」


探偵中村は腕を組む。

「ところが、元君の優勝で楽器メーカーには、宣伝効果がなくなる」

「政治家は資金集めパーティーで娘を自慢できなくなる」

「大指揮者は、自分の指導失敗が話題となり面子がまるつぶれ」

「そんなことが見え見えで、都議は癇癪を起したのか」


杉本女史

「大指揮者は、元君の演奏直後には、大きな拍手」

「ところが自分の弟子の佐伯さんの大失敗の後は、元君の演奏は、たいした演奏ではないと、こきおろしたとか、よほど悔しかったのでしょうね」

「どう考えても、根拠のない、程度の低い、子供には聞かせられない逆恨みです」

「あの都議も大指揮者も、金と面子だけには、恐ろしいほど執着するので」

「それから元君も、多感な時期」

「偉い都議の先生と、超有名な大指揮者に暴言を吐かれ、嫌気がさしたのでは」


探偵中村の、杉本女史への聞き取りは、ここで一旦終わった。

「ありがとう、杉本さん、助かった」


杉本女史は首を横に振る。

「いえいえ、私としても、何とか、元君の演奏を表で聴きたい」

「それと、都議と大指揮者をペシャンコにしたい」

「ただ、二人とも、大権力者、なかなか手段が少なくて」


探偵中村は杉本女史に、また次の調査の約束のお願いをして、音楽雑誌社を辞した。

そして、再び吉祥寺のクラブに戻り、聞き取った情報をマスター、そして店にいたミサキに説明をした。


説明を受けたマスターは、渋い顔。

「そうかい、ありがとう」

「ようやく霧が晴れて来た」

「しかし、気に入らねえな」


探偵中村も、深く頷く。

「元君は、全く非がない、下らないトバッチリを受けて」

「身体を壊したのは、都議の娘かもしれないが、元君は心を壊されて」

「聴いていて、腹が立つやら、元君が可哀想やらで」


ただ、ミサキは何か思い当たるような顔。

「その都議って、知ってるよ」

「時々、店に来る」

「ほとんど酷く酔っぱらって来るかな」

「私は受けたことないけど」

「ただ、一度指名された女の子は、二度と受けない」

「受付もわかっているから、出店ランプをすぐに消す」


マスターはミサキに聞く。

「何か理由があるのかい?」

「指名があれば、金も入るだろうし」


ミサキは、即答。

「聴いた話では、とにかく、女の子を大事にしない」

「言葉も酷い、突然吐いて、構わずぶちまける」

「それで文句を言えば、殴る蹴るもあるとか」

「都議だから偉い、そんな感じ」

「下手に文句を言うと、店をつぶすとか、大騒ぎ」


マスターは、ミサキの話の途中で、誰かに電話をして、すぐに終えた。

「どうせあちこちで、同じことしているだろ、張らせてみる」

「来週あたり、記事になるかな、楽しみだ」


マスターは笑い、探偵中村は指を鳴らす。

ミサキは、ユリとエミにメッセージを送っている。

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