第5話久々の家

「四週間ぶりか、もっとか」

元は、玄関にはいるなり、顔をしかめた。

郵便受けに、かなりたまっている。

「知るか、そんなもの」

と思うけれど、わしづかみにして、食堂のテーブルに置く。

それよりも、空気の入れ替えを優先、全ての窓を開ける。


「冷蔵庫には何もなし」


そのままコニャックを開ける。

結局、朝から何も食べていない。

その胃に、コニャック原液は強い刺激。


「どうだっていい」

「クラブには今夜はいかない」


それでも、郵便を見る。

「親父とお袋だけだ、全てセールス」

「結局、俺には何も来ない」

「親も俺には興味がないのか」


元は、スマホを持っていない。

だから、海外にいる両親が元に連絡をするには、家の固定電話か、あるいは手紙以外に、手段はない。

元は、固定電話の留守録を見た。

「何もない」

「生きているのか、死んでいるのか」

「お互いに、どうでもいい」


コニャックをまた、飲む。

酔いが回ったのか、刺激は減った。

しかし、眠気が強い。

「目が回る」

もう一杯飲む。

椅子に座っている場合ではなくなった。

「寝るか」

元は、フラフラと立ち上がった。

しかし、ベッドまでたどり着けない。

フローリングの床に転んだ。

柱に頭をぶつけたらしい、頭から血が出ている。

「どうでもいい、眠い」

眠気が痛みに勝った。

元は、そのまま眠り込んでしまった。



目覚めたのは、おそらく夜。

頭がガンガンと痛い。

それは酒のせい、と思った。

首を少し動かすと、床に血痕。

頭に手を当てると、ズキズキする。

血は止まっているようだ。

「酷く切ったわけではないか」

安心したような、残念なような。

「そのまま、死んじまったほうが楽でいいのに」


ただ、もうコニャックは飲む気にならない。

胃も、ムカムカして来た。

「せいぜい、水か」


起き上がる時に、少しふらつく。

それでも、照明をつけた。

食器棚からコップを出し、水道水を飲む。

「美味くない」

「他に飲むものがない」


元は、それ以外は何もしない。

結局、ベッドに転がり込んだ。

「このまま、死んじまったら・・・」

「それでも・・・いいか・・・」

酔いがぶり返したようだ。

元は、そのまま眠ってしまった。

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