第22話 爆発
バァン!
カインはウポウルのバカでかい腹を目掛けて銃を撃った。外れる心配はない。
鈍い音と共にウポウルの腹に点がくい込むのが見える。やがて逆回転して元に戻る。弾丸は勢いをなくして地面に落ちた。
「こぉんのぉおお!」
ニーナの木の杭がミサイルのように空を飛び、振り回す腕をかいくぐってウポウルの胸にめり込んで止まった。ウポウルは毛の一切ない身体を揺らしながらグヒグヒとヨダレを垂らして笑い、腹で止まっている木の杭の一つをつまんで潰す。
「あーっ! こんのデブちんめ!」
ウポウルがその大きな鼻から空気を吸い込むのが見える。
「うわ! もうかよ!」
ルディは慌てて火を手の上に集めて大きくしていく。それをウポウルが炎を噴いた瞬間に投げつける。
せめぎ合い破裂した炎がところ構わず火を撒き散らす。
「ちょっと! 危ないじゃないの! バカルディ!」
「んだと? 守ってやったのに!」
ビリーはため息を漏らす。
「やめてくださいっスよ! こんな時に」
カインはウポウルの顔面目掛けて拳銃を二発撃った。一発は頬に当たり、ブニュリとめり込んで止まる。もう一発は額を掠めて飛んで皮を切った。
「なるほど。こいつの身体はまるでゴムだ」
ウポウルは頭上に振り上げた腕をカイン目掛けて振り下ろした。
ウポウルの腕が地面を叩き微かに揺れる。すでにカインはその場から離れていた。
「動きは遅いけど、厄介だぞこりゃ。あと、僕らのチカラで試してないのは……」
三人が一斉にビリーを見た。
「な、なんスか?」
「ビリー、あんたその槍持って空飛んでみたくない?」
ニーナは腕組みをしたまま恐ろしく冷たい目をしている。
「い、いやっス」
チッとニーナは舌打ちした。カインは不毛なやり取りを尻目に言った。
「よし、次はみんなであいつの足を狙ってみよう。あの図体だ。足にはかなり負担がかかっているハズなんだ」
「分かった」
「フン!」
ルディは走り、ニーナは木の杭を空中に並べて、脚に巻き付けてある棒手裏剣を加えて操った。
「なあ、ビリー。君に足りないのは一つだけだと僕は思っているんだ」
カインはビリーの肩に手を置いて見つめた。
「なんスか? それは?」
ビリーはムスッとしている。
カインは答えず、ニコリと笑った。
「さあ、僕はちょっと野暮用があるから、ここは君たちに頼んだよ」
カインはアルノルトとシスターがいる祭壇に向かって走った。
ビリーは一人その場に残り、ふくれっ面で足元の小石を蹴飛ばした。
チェ、なんだよなんだよ。僕だってやれば出来るんだ。いくらやっても誰も認めないじゃないか。くそ! くそ! その時が来れば僕だってやれるんだ。
***
ウポウルがまた巨大な鼻から空気を吸い上げる。辺りの小さな瓦礫も一緒に吸われていく。
ルディがまた相殺しようと火の玉を作り上げる。
「待ちなさい!」
制しするように言って、ニーナは木の杭をウポウルの開きかけている口元目掛けて三本の木の杭を飛ばす。
一本目が下唇を押し上げるように突き刺さり、二本目が上唇に刺さる。棒手裏剣がそれらを援護する様に刺さる。つまり、炎の出口を塞いだのだ。
木の杭の残りの一本が一つしかない鼻の穴に突き刺さる。ニーナは思う。あの杭は絶対持って帰らない。
派手な爆発音がして、ウポウルの口から出ようとしていた炎が口の中でとぐろを巻いた。
口の端から炎を真上に吹き上げて、ヴシュンヴシュンと豪快なくしゃみをしながらたたらを踏んでいる。
「ナイス!」
ルディは火の玉をウポウルの右膝へ狙って投げつける。膝で火が爆ぜるとウポウルはよろけた。
ビリーがウポウルの足元目掛けて突進する。
その時が来たら、その時が来たらだって!? 僕はなにやってるんだ! 僕は自分を殴ってやりたい! 今やらなければ僕はずっと言い訳し、逃げ続けるだけなんじゃないのか? そうさ! きっとそうだとも、こんなんだから誰も認めないんじゃないか!
「今じゃなきゃ!」
ビリーはウポウルのアキレス腱に短槍を突き刺した。ビリーの青い帽子がチカラの余波で飛んでいく。ビリーのいつもは隠している白い髪、それが今バチバチと逆立っている。
「一体いつやるってんだぁぁあ!」
ビリーは短槍の柄にチカラを全力でぶちかます。
落雷が落ちたような音が空気を切り裂いて轟いた。ウポウルが体重の要を失い、身体中から白い煙をあげながら地面にゆっくりと倒れ込んだ。
ウポウルが倒れ込むと地面全体が震えた。砂煙が吹き上がり、軽い小石が風圧で吹き飛んだ。
「ニーナ! こいつの口、そのまま開かせてろ!」
「バカルディのクセに人に指図すんしゃないわよ!」
ニーナの杭が口を閉じるように刺さっていたが、今度は口を閉じられないようにつっかえ棒の役割をする。
ルディは腰のシスター手作りのポーチから細長いものを取り出した。
「さーて、へへへ! こいつはどんなもんかなっと!」
ウポウルの開いたままの口に両手を突っ込んでダイナマイトの導火線に火をつけて離した。
ルディはウポウルの腹から飛び降りて走りながら言った。
「みんな! 離れろ~! ワーハッハッハッハー!」
ニーナはウポウルの鼻を塞いでいる木の杭は意識化から外し、残りの二本とビリーの短槍を急いで回収しながら気を失っているビリーの服に滑り込ませて浮かせた。そのままニーナと並走して離れた。
ニーナとルディは、倒壊した地下を支えていた柱の陰に隠れた。ビリーがフワリと降ろされる。
「一体何してんのよ! バカルディ!」
「へへへ! まぁ見てろって!」
飲み込んだダイナマイトの導火線がウポウルの喉に詰まり、ウポウルは喉を掻きむしっている。それはやがてゼロを迎えた。
耳が壊れそうな爆発音がしたかと思うと、ウポウルの身体から血の柱が真上に吹きあがった。周辺の空気が一気に生臭くなり、血と臓物の雨が降る。
びちゃびちゃと血と肉片がニーナ達の上にも降ってくる。ニーナお気に入りの黒のセーラー服は血と汗と臓物でドロドロになってしまい、ニーナは握りしめた拳を怒りでブルブルと震わせた。
「こ……こぉんのぉ、バカルディィ!!」
ニーナはルディの頭にゲンコツをかました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます