第15話 迷子の仲良し三人組

 ドオォォン!


 小高い丘の上に立って、マリアはなにかの破裂音に振り返った。眼下に広がる森の奥で火柱が上がっているのが見える。方角は通って来た道だ。マリアの後ろにいるはずの三人の姿が見えない。


〈……もしかして、あの音って……〉


 マリアは血相を変えて前方に向かって言った。


「みんな! まずいよ! あの三人迷子になっちゃったかも!」


 ジャック、カイン、シャオ、アンバーが振り返る。ミカエルはいつの間にか眠ってしまっていた。


「そんな! 私が索敵ミスったんでしょうか?」


 シャオは胸の前で手をギュッと握りしめた。


 カインはやれやれと頭を振った。


「……いや、あの三人の事だから、たぶん喋ってケンカしてるうちにハグれて見つかったんでしょ」


「どうしよう……? 戻る?」


 マリアは剣の柄に手を乗せる。カインが難しい顔を浮かべて、眉間に皺を寄せたまま受け負う。


「うぅ……ん。このまま進もう。あの三人には悪いけど、丁度いい。おとり役になってもらおう」


「いいの?」


 マリアは眉をひそめた。ジャックの方を伺い見ると、カインが割って入るように続けて言った。


「僕たちがシスターを奪還すればいいだけの話しだよ。さぁ、行こう」


 カインはジャックの脇を抜けて先へ進んだ。崩れかけた丘の先は細い道が下っていて、その先には古城が見えている。


 もう名前すら誰も覚えていないほど古く、一部が崩壊している城の跡地。


 カインは拳を握りしめながら思った。あそこにあいつがいるんだ。父さんの思考を読んだ時から分かってるんだ。すぐそこにだ。


 アンバーが迷いなくカインの後に続いていく。


 ジャックとマリアは顔を見合わせていると、シャオが心配そうに言った。


「なんか、カイン怒ってるみたいですね……」


「大丈夫だよ。シャオ」


 マリアはシャオの肩に手を置いてできるだけ安心するような声音で言い、先を促した。


 請け負うようにジャックはシャオの小さな背中を抱くように歩いた。


「さあ、ついて行こう」


 マリアはその姿を見つめて立ち止まり、困ったように後ろを振り返って爆発音のあった方を見つめて祈った。


〈どうか……どうか、あの三人が無事に追いつきますように〉



「うわったった! あっぶねえぇ! こんのやろぉ!」


 ルディの投げつけた火の玉が一体のゾンビの身体を焼いた。


 ニーナは木の杭を操りゾンビを次々と倒していく。


 ビリーは鉄の短槍でゾンビの胸を突き刺す。ゾンビは槍が胸に刺さったままお構い無しにビリー目掛けて歩み寄ってくる。


「うわわ!」


 ビリーの手のひらから青い閃光の電気が短槍を伝い駆け抜ける。ゾンビがガクガクと震えて動きを止めると、ビリーは槍を引き抜いた。


「これ、めちゃ使えるっス!」


 ビリーは次々とゾンビを刺し感電させていく。


「こっちこっち!」


 ルディは森の奥で先に行って手招きした。


「行っくぞー!」


 ルディは両手に一つずつある火の玉を押し当てて、一つのスイカ大の大きさにすると、ゾンビの集団の足元に投げて破裂させた。


 炎が散ってルディ達の足跡や匂いを消し飛ばしていく。ゾンビの群れはルディ達を見失いバラバラに歩いていった。


 ルディ達は巨木のうろに隠れて息を潜めていた。大きな木のうろは、ちょっとした広さがあり、小さな熊ぐらいなららくらく入れるほどだ。三人はその暗がりに隠れたまま不安そうにしていた。


「どーすんのよ。何とかして父さん達に合流しなきゃ」


「まずはあのゾンビの群れから逃げてからっスよ」


 ニーナは気になっていた事をルディに向かって口にした。


「……それより、あんた、それ父さんのじゃないの?」


「へ? このカッチョいい指輪か? いいだろぉ? やんないぞ?」


 ルディは両手の指輪を見せてニヤァっと鼻の穴を膨らませて緩んだ笑みを浮かべる。


「……そう言う意味じゃないわよ。あんたが貰ったのは一個のハズでしょ? なんで二個あんたが持ってるのって話しよっ」


 ルディは目を逸らし、鼻の絆創膏をかきかき言った。


「あぁー……借りた」


 ビリーとニーナは呆れてため息をついた。


 ビリーがなにかの気配を感じてふと顔を上げ、木のうろの外の方を見ると、誰かが覗いていた。


 身体全体は見えないが、目が大きく、首を傾げていて、ポニーテールの長い金髪が地面に向かって伸びている。表情は暗くてよく見えない。その姿に見覚えがあった。


「マ、マリア? よかった! みんなは無事っスか?」


 マリアはうろに手を当てて首を傾げたままこっちへと歩いてくる。


 足元が見えるがマリアお気に入りの茶色いブーツではなく、裸足で、親指の爪がめくれてウジが湧いているのが見える。それがまた一歩と踏み出してくると、上半身が大きくガクリと傾いた。


 ルディがポケットから点火器を取り出し、打ち合わせる事で火縄に火をつける。


 ボンヤリとした明かりの中に姿が浮かんだ。そこに居たのは三人がよく知るマリアではなかった。よく見ると服装も違う、破れたボロボロの服を着ている。


 首を傾げているのではなく、首が折れているようだ。その先にある一つに纏めてある長い金髪が、余計生前感を残していて不気味だった。


『うわぎゃー!』


 三人が同時に叫んで抱き合った。ビリーが持っている短槍を突き出すと、思わず使ったチカラが短槍に流れた。抱き合ったままの三人と、短槍の先に触れたゾンビと三人の身体を電気が次々に駆け抜けた。


 細い雷が巨木の虚から外に向かって走り、後から三人がノロノロと這い出してくる。


「し……しびびび」


 ニーナとルディは口元に残る痺れに驚き口を覆った。


「ご、ごめん二人とも」


 ビリーは頭をかきながら謝ったが、二人に特大のゲンコツをされた。


 いつの間にかゾンビの群れは、隠れていた巨木の周りに、円を作るように囲みながら迫って来ていた。

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