第34話 妖精ファセ
「おい! 浄天の女! 俺様が見えるか?」
小さな黄色の光から声が聞こえた。
「誰? 黄色の光しか見えないよ」
「しょうがねぇな!」
すると、黄色の光が人の形になって、手のひらぐらいの小さな人が現れる。
白髪で赤い瞳。目つきは鋭く、背中には黒い翼があった。
「あなたは誰?」
「俺様はファセ。ミーアと契約をしている妖精だ。ミーアを助けに行くぞ! 力を貸してやる」
私に迷っている暇はなかった。
「お願い! でも、場所が分からないよ」
「あの男はミーアと俺様の契約を強引に切り捨てやがったが、ラーナと俺様の繋がりは気づいてねぇ。その繋がりを辿れば追える。それに、ミーアもお前に手掛かりを残しているはずだ。ミーアのことを思い浮かべろ。ミーアはどっちにいる?」
「どっちって……」
ミーアのことを思い浮かべた。何となくだけど、西の方にいる気がする。
私は西の方角を指差した。
でも、あそこって……
「ミーアは一瞬でお前とタースを繋いだ。流石、俺様の契約者だぜ。西の森へ行くぞ!」
西の森と呼ばれている
西の森とギムト村の間の結界がなくなっていたので、すんなりと西の森へ入れた。多分、あのグラウとか言う男が結界を壊した。
西の森には初めて来た。レオーネには来るなと言われていたから。それに、魔眼のせいで沢山精霊を見ることになるかもしれないから、私も来ようとは思わなかった。
でも、西の森に精霊たちがいない。魔眼は既に開放状態にしているから精霊がいたら見えるはずなんだけど……
「精霊がいねぇ。グラウって奴のせいかもな」
精霊までいなくするなんて。封魔石とか言う変な石を持っていたし。グラウって男は何者なんだろう?
ファセを先頭にして歩いて行く。どんどんミーアに近づいている気がする。
すると、草薮をガサガサと揺らす音が周りから聞こえた。
「チッ! おい、浄天の女」
「さっきから浄天の女、浄天の女ってなんなの? 私にはアリステリアって名前があるんだけど」
「ラルヴァに囲まれているぞ。さっさと倒せよ」
近くの草薮からヴォルスが飛び出してくる。
霊気を体に取り込み、三体のヴォルスを纏めて剣で斬り裂く。地面に三つの
ヴォルス三体ぐらいなら、もう私の敵じゃない。あっという間に倒せる。
「おい! ヴォルスを倒したぐらいで喜ぶな。他にもいるぞ。早く倒せ」
奥の方からラルヴァが十体現れる。
半分の五体はヴォルスだけど、残りのラルヴァはなに?
骸骨が人間のように剣を持って歩いている。骸骨たちは服を着ているけど、服がボロボロで骨が丸見えになっている。それに、肉が腐ったような臭いもする。
「珍しいな。あれはスケルトンだ」
「スケルトン?」
「死んだ人間が骨になって、ラルヴァ化した姿だ。下級ラルヴァだから、さっさと倒せ!」
「どうしてそんなに口が悪いの? そんな風に言わなくても、さっさと倒すよ!!」
私は地面を蹴って、飛び出した。
先にヴォルスの方へ向かう。スケルトンは後回し。初めて戦う敵だから、少し様子を見て戦いたい。
ヴォルスも私が向かってくるのに気が付いて、五体のヴォルスがそれぞれに口から衝撃波を放つ。
衝撃波を先読みして、私は右へ左へ跳んで衝撃波を躱した。そして、勢いのまま二体のヴォルスを縦に両断。別の二体のヴォルスは首を突き刺す。最後の一体は剣で薙ぎ払った。
ヴォルスを倒し終わったが、一息をつく暇もなかった。
一体のスケルトンが私に近づいて、剣を振るった。その剣を躱して、一歩下がる。
動きは遅い。私の速さで十分に圧倒できる。
私が下がった隙に、他のスケルトンたちが私を囲む。そして、一斉に攻撃を仕掛けてくる。
だが、私は大きく飛び上がり、スケルトンたちの攻撃を躱した。その躱し様にスケルトンの首を狙って剣で斬り裂く。
ガン!
しかし、スケルトンの首はとても固く、途中で剣が止まってしまった。
「スケルトンは下級でも中級に近い強さだ。でも、下級なんだから、早く倒せよ!」
ファセの声が聞こえた。
あいつは何なの? 命令だけじゃん!
私は首を横に振って、ファセへの苛つきを振り払う。私の悪い癖だ。外から口出しがあると、集中が途切れてしまうことがある。レオーネに何度も怒られたことだ。
このままの剣が通じないなら……
剣を強く握り、霊気を手のひらに集めて、霊気を外に放出する。
白い光が剣を覆う。
これは
一気に間合いを詰めて、スケルトンを霊気の纏った剣で両断する。
よし! 斬れる!
勢いに乗った動きを止めずに、右側にいるスケルトンの胸に突きを放ち、そのまま右に薙ぎ払った。骨が崩れて黒い煙となって消える。
前から迫るスケルトンは胴を上下で両断。左にいたスケルトンの首を飛ばした。
そして、最後の一体。私は大きく跳躍して、最後のスケルトンを頭から股まで斬り裂いて真っ二つにした。
額から汗が流れ、呼吸が乱れる。
だけど、まだ力は有り余っている。
「倒したな。近くにラルヴァの気配はない。行くぞ!」
私は呼吸を整えて、ファセについて行く。
近道か分からないけど、草薮を掻き分けて進む。
「チッ! あの野郎!」
「どうしたの?」
「ミーアに何かしてやがる。ラーナの魂が表に出ようとしている」
「ラーナの魂が表に出たら、どうなるの? ミーアは元に戻れるの?」
「元に戻れねぇよ。ラーナの封印が完全に解けたら、ミーアは死ぬぞ」
「そんな…… 早く助けないと」
「分かってる。だから、浄天の女!」
突然、ファセは私の前で止まった。
「どうして止まるの? 急がないと!」
「分かってる。その前に、俺様と天の盟約を結べ!」
「天の盟約? でも、私は」
「お前がラフネの契約者ってことぐらいは知っている。ラフネの契約者と天の盟約を結ぶのは癪だが、仕方ねぇ! ミーアを助けるためだ!」
「ラフネ――」
私は途中で言葉を切った。
ファセは浄天の魔眼やラフネのことを知っているみたいだから聞いてみたい。
でも、それは今聞くことじゃないから全部忘れる。
「結んだら、どうなるの?」
「弱い魔法しかできねぇが、俺様がお前を手助けできる」
「なら、お願い!」
「ああ、やってやる!」
ファセが唱える。
『アーク ガラバ アーク イコーチ エスーム ヴァリアース』
ファセに頭を触れられると、私は黄色の光に一瞬だけ包まれた。
「これで、俺様とお前は天の盟約を結んだ。俺様はお前の妖精門から生成した魔力で魔法が使える。だが、俺様が使えるのは弱い魔法だけだ。俺はミーアを助けるのに手助けしかできねぇ。だから、お前がミーアを助けてくれ」
驚いた。こんな風にファセからお願いをされるとは思わなかった。てっきり、命令されると思っていたのに……
きっとファセはミーアが大切なんだね。
私もミーアが大切。だって、私の親友だもん!
「助けるよ。私はミーアの
ファセを先頭にして、ミーアのいる場所へ駆ける。剣を握りしめて、強く誓った。
――私が絶対にミーアを救う!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます