第三章 初めての冒険
第20話 精霊七礎って?
エストー村を離れて、一ヶ月が過ぎた。この一ヶ月は野宿や宿を取って過ごした。野宿を繰り返したお陰で、私は火打石で火をつけるのにもすっかり慣れた。
明日、マディールに入る予定。今日はマディールに入る直前の町グノンに宿泊している。
私とレオーネはベッドの上に座って会話をしていた。
「明日、マディールに入る。五日ほど歩けば、マディールを抜けることができるだろう。その次がアルフヘイムだ。アリス、その前に話しておきたいことがある」
「どんなこと?」
「お前の魔眼のことだ」
旅の間、レオーネと私の魔眼について話をすることはなかった。大切なことだと思って、私は背筋を伸ばして聞く。
「ユンナーから聞いたが、お前は妖精が見えるらしいな」
「うん」
ラフネの話になりそうだったら、話せないから気をつけないと。この前、ラフネのことを話そうと思ったら胸が苦しくなったから。
「おそらく妖精と契約をしているんだろう。話せることだけ話せ。言えないことは言わなくていい」
「うん、分かった」
「妖精が見えるとなると、アリスの魔眼は星の魔眼だな」
知らない言葉だ。どういう意味だろう?
私は首を傾げる。
「私も魔眼を持っている」
「え? そうなの?」
「ユンナーから聞かなかったのか? 魔眼には天の魔眼と星の魔眼の二種類がある。星の魔眼は天の魔眼よりも上位の魔眼だ。私の魔眼は天の魔眼に当たる」
「私のは星の魔眼…… どう違うの?」
「まず星の魔眼を持っている者はかなり少ない。それに星の魔眼は天の魔眼よりも強い力を持つ。そして、もっとも異なることが星の魔眼は妖精を見ることができる」
「じゃあ、私の魔眼はレオーネよりも強いんだ! そういうことだよね?」
レオーネに頭を軽く叩かれる。
「痛いよ、レオーネ」
「お前が調子に乗るからだ。私に勝つなんて、千年早い」
「千年も経ったら、骨になっちゃうよ。百年でも死んじゃうのに。エルフのレオーネには分かんないと思うけど」
ベチッ!
またしても頭を叩かれる。しかもさっきよりも少し強め。痛かったので、自分で頭を優しく摩る。
「だから、痛いよ」
「あー、うるさい! 旅をしている時も思ったが、アリスは口答えが多い。とにかく、アリスの魔眼はまだ弱い。お前が使いこなせていないからだ」
「そんな風に弱いって正直に言わなくてもいいのに。私だって弱いのは分かってるよ」
私はレオーネの言葉が気に入らなくて、顔をプスッと膨らませる。
「私と戦った時のことを覚えているか?」
「レオーネと戦った時? 私が襲われた時のことだね?」
「襲われた? ちゃんと名前を確認しただろう。まぁいい。あの時、アリスは魔眼で予測の力を使ったはずだ」
「うん。でも、目の前がグニャンてなったと思ったら、レオーネが二人に分かれて、変な感じだった」
「それはお前が私の魔眼の力に負けたからだ。アリス、お前は魔眼の力の基礎も殆ど使えていない。その証拠に私と戦っている時、お前の瞳の色は変化しなかった」
「え? 瞳の色って変化するの?」
「ああ、変化する。私の目を見てみろ」
私はレオーネの瞳を見つめた。
レオーネの瞳は薄緑の綺麗な瞳。まるで宝石みたい。その宝石みたいな瞳をじっと見つめていると、あっという間に瞳の色が変わる。薄緑色から銀色の瞳になった。
「スゴい! レオーネの瞳、とっても綺麗」
「き、綺麗か? そうか」
レオーネの頬が少し赤い。もしかしてテレた?
からかってやろうと思ったが、やっぱり止める。また頭を叩かれちゃう。
「これが魔眼を本当に解放している状態と言える。アリスの場合は魔眼の力を使っているのにもかかわらず、瞳の色が変化していない。不安定な状況だ」
レオーネは魔眼から元の瞳に戻す。
「魔眼を完璧に制御できるようになると、当然、精霊界に呑まれることもなくなる。アリス、精霊の見える数が増えているだろう?」
レオーネの言う通りだった。ユンナーの目薬を使っているが、見える精霊の数はどんどん増えるばかり。精霊たちに呑まれそうな感じがして怖い。
「うん。ユンナーの目薬は注しているんだけど、もう役に立たないかも。ねぇ、レオーネ。私ずっと思ってたんだけど、精霊って
私の質問にレオーネは溜め息をついて答える。
「精霊七礎というのは、妖精神アルタニウスが一番最初に創った七つの精霊のことを呼ぶ。火がイグニス、水がマークア、風がウントゥーネ、木がアルディエ、土がソイテラ、光がラクス、闇がテネブ。世界に存在する無数の精霊はこの七つの精霊が分かれた姿だ。例えば、窓の方にいるあの蜥蜴もどきを見てみろ」
窓の方を見ると、蜥蜴がカサカサと音を立てて壁を歩いている。でも、その蜥蜴は普通の蜥蜴と違って、手足が植物の根みたいになっている。
「あの精霊は木の精霊アルディエだ。分かったか?」
「なんとなく分かった感じ。精霊七礎の体が細かく分かれたから、この世界には精霊七礎の分身が沢山いるってことだね?」
「ああ、その理解で良い。明日は早く起きて、マディールへ入ろう。そろそろ寝るぞ。明かりを消すがいいか?」
「うん。レオーネ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ベッドに入ると、私は直ぐに眠ってしまった。
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