第一章 騎士の目覚め
第3話 私、強くなりたい!
クラウス兄さまが死んでからどのくらいだったろうか。
家には私たち家族を励ますために、沢山の村人が来てくれた。
父さまも母さまも悲しんだままだけど、少しずつ前に動き出している。
でも、わたしは動き出せないでいた。
ずっとあの悲しみから止まっている。
父さまも母さまも、自分が一番悲しいはずなのに、わたしに動き出してもらおうと、わたしを何度も励ましてくれた。
でも、わたしはそれを受け入れることはできなかった。
こんなことを兄さまが望んでいないことぐらい分かっている。
分かっているのに……
どうしても立ち上がれない。
エルザニアの夢を見た。こんな時にどうしてと思ったけど、夢だから途中で止めれない。
どうせなら兄さまの夢を見たかった。
「ラルヴァはお前で最後だ!! 喰らえ!!」
エルザニアの前に立ち塞がった敵は巨大なラルヴァ。巨大な黒っぽい肉の塊に手足が無数と生えていて、その肉の塊はドクドクと鼓動を打っている。
でも、エルザニアの体は既にボロボロで戦えなさそうな感じだ。
エルザニアはボロボロの体を無視して、大剣を頭上に持ち上げる。
大剣に巨大な光の渦ができあがる。
『ガイス・バン・ヴァル・マリトーヴァ!! 我に集いし、希望の光よ、敵を凪払え!!』
大剣を振り下ろして、光の渦が巨大なラルヴァを飲み込む。
光が消えると、ラルヴァも消滅していた。
そして、場面が変わる。
エルザニアは馬に乗っている。
ゼェゼェと呼吸をしながら、急いでいるみたい。
前方に燃えている町があって、エルザニアは馬の速度を緩めずにその町へ入った。
もう町は焼け野原。
ある家の前で、一人の男の子が血だらけで倒れていた。
あれ? わたしはこの子を知っている。
エルザニアの記憶の中で見る子。
エルザニアはその子を抱き締めて、泣いた。
いつもの後悔と悲しみが私にも押し寄せてくる。
「すまない、アル。私がもっと強ければ…… 私がもっと早く来れたら……」
え?
エルザニアは最強の騎士なのに、どうしてもっと強ければって言うの?
「私は弟であるお前すら救えないのか?」
アルって子、エルザニアの弟なの?
弟が死ぬなんて、家族が死ぬなんて辛い。
わたしと同じ……
「私にもっと力があればお前を救えたのに…… ごめんな」
エルザニアの後悔する姿を見て、エルザニアと同じように私も後悔をする。
わたしはその後悔に胸が張り裂けそうになった。
もし、わたしが剣で戦えたなら、兄さまは死なずに済んだのかな?
もし、わたしが兄さまと力を合わせることができたなら、兄さまは死なずに済んだのかな?
もし、わたしがエルザニアのように強かったなら、兄さまを救えたのかな?
エルザニアの激しく後悔をした気持ちをわたしは知っていた。
なのに、どうしてわたしは呑気な毎日を過ごしていたんだろう?
わたしは大馬鹿だ。
この後悔と悲しみを知っていたのに、今まで何かしようと思わなかった。
幸せな生活をただ過ごしていただけ。
その裏で兄さまたちが命を懸けて戦っていたことを知っていたはずなのに……
わたしはもう二度とこんな悲しみを感じたくない。
――こんな悲しい気持ちを誰にもさせたくない。
私は騎士になる。
そして、ラルヴァから皆を守りたい。
誰も死なせたくない。
――私、強くなりたい。
目を覚ました。
私は階段を降りて、父さまたちがいる部屋に向かう。
父さまが私を見て驚き、母さまは私の姿を見て泣き出した。
それは驚くよね、ずっと引き籠もってたんだから。
「アリス、どうした?」
父さまに質問をされて、気持ちが先に出た。
「私…… 強くなりたい!」
「強くなりたい?」
それを聞いて、父さまは不思議そうな顔をした。
私は泣きながら、思いの丈を父さまにぶつける。
「私は…… 後悔したくない! あの時、もし私に力があったら、兄さまと一緒に戦って兄さまが死ななかったかもしれない。だから、私は皆を守れる力が欲しい! 私、騎士になる!!」
「アリス、女が騎士になるのは難しい。きっと辛い道になるぞ?」
「父さま、辛い道とか関係ないの。私はもう後悔をしたくないし、こんなつらい想いを誰にもさせたくない。だから……」
父さまは黙って私の言葉を待つ。
「私を騎士にして下さい!!」
父さまは無言で頷いた。
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