市長土下座計画 発進! その二

 土曜日。祭祀当日。

 銀竜神社に集合した私たちは、それぞれ準備をしていた。

 頼希とタクト君は、昨日、ようやく入り口を見つけた。

 実は、入り口の扉を動かすためのスイッチみたいなものが、あのミニお社の本宮の裏にあったことは、すぐに解ったそう。

 そのスイッチはナビのビームで動いたらしんだけど、入り口はどこにも見つけられなかった。

 スイッチを動かしたときに、外でわずかに物音がしたということで、ダメ元で森の中を探したら、建物の裏手にあった大きな岩が動いて、地下への入り口が開いてたんだって。

 でも、すぐに閉じちゃったので、中には入っていないそう。


 あのミニチュアお社の裏に入り込むのは、さすがに祭祀が始まったら無理なので、どうにか市長の説得に成功したいところだ。

 今は朝の七時。私と松乃ちゃんと天鞠先輩が、女性の控室で、たくさんの大人の人たちに着替えさせてもらっている。

 全員の着替えが終わって、参加者が全員揃ったら、参加者のお祓いを宮司さんがして、祭祀のはじまりだ。

 市長はそろそろ来る頃かな。

 タクト君は、成瀬先輩と一緒にいたけど、頼希は少し前に、準備があると言っていなくなったきり、見てない。

 大丈夫かな?

「緊張するね」

 松乃ちゃんが、着替えも化粧も終わって、頭飾りをつけてもらっているときに、そっとつぶやいた。

「そうだね」

 私も、自分の頭の上に金属の飾りが乗せられるのを感じながら、答えた。

 神楽舞も緊張するけど……土下座計画も緊張する。


「ふたりとも、よく似合っているよ」

 皐月姫の巫女服とはちがう、楽隊の女性が着るシンプルなはかま姿の天鞠先輩がそう言った。

「先輩も――」

「たのもーーーー!」


 先輩もかっこいいですって言おうと思ったとき、玄関の方からものすごい声が聞こえた。

 頼希の声だ。

 私たちは目をまん丸にして、顔を見合わせた。


 そうっと戸を開けて廊下に出ると、玄関に人ごみができていた。


「たのもー! たのもー!」


 声は今も聞こえている。

 私たちは恐る恐る玄関に行って、人ごみのすき間から外を見た。

 玄関には、驚きに目を丸くしたタクト君が立っていた。


 その視線の先には、スーツ姿の大人たちの背中が見えて、その向こう側から頼希の声が聞こえてきた。


「学校統廃合に反対し、抗議します! 市長は、我々学生の声を聞け―――!」


「えええええっ!」


 なんと頼希は、頭に「統廃合反対」と書かれたハチマキをまいて、背中に「学生の主張を無視するな」と「子供を守れ」と書かれたのぼりを右と左に背負って、両手に「市長に抗議する」「対話を要求する」と書かれた木の看板を持って、大声で叫んでいた。


「わーお」

 松乃ちゃんが、抑揚のない声で言った。


「アアア」

 天鞠先輩が、珍しく凍り付いた声をだした。

 どうしたのかな? と思った直後、私もその声の原因を見つけた。


「そうだ―――! 市長は我々の声を聞け―――!」

 頼希の隣には、楽隊のはかま姿で頼気に加勢する成瀬先輩がいた。


「市長! 私はあなたとの対話がかなわなければ、祭祀をボイコットします!」


 わーお、そこまで言っちゃう。

 だ、大丈夫かな?

 怒られないかな? と思ったとき、スーツの背中の中の一つ。

 がっしりした、グレーのスーツの背中から声がした。


「わかった。祭祀開始前の五分だけでよければ、話を聞こう」


 タクト君がびくりと震えた。

 そして、そのグレーのスーツの背中がくるりと振り向いて、迷うことなく、まっすぐにタクト君を見つめた。


 九内竜司だった。


「すご。 頼希君ぐっじょぶ」

 松乃ちゃんが小声でつぶやいた。

「あ……はは……結果オーライってやつかな?」

「やれやれ。心臓が止まるかと思ったよ」

 力なく笑うしかなかった私の横で、天鞠先輩も苦笑いをして言った。

 私たち女性陣には絶対できなそうな行動で、頼希は見事に対話の時間を勝ち取ったんだ。

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