第104話

「ごめん、リズ、大切なリズ。やっと、この手に抱けた。

14年も待ったのよ。」

アレクサンドラは、強く抱きしめた腕を離さない。


「お母様、苦しいです。

これからは、お母様の傍に居ます、だから、離して下さい。」


「リズ、本当よ。」と言うと、肩に、手を置き、顔をみつめる。


「お母様、座って、お話しましょう。」と、アレクサンドラに笑顔を向けて、言った。


「そうね、リズと二人で、話せるのね。」と言い、椅子にすわり、話しを始めると、ウォーリーが、お茶を持って来てくれた。


「ウォーリー、ありがとう。」

と声をかけると、ウォーリーも涙が瞳に、溜まっている。


「いいえ、王妃様」と言うと涙が溢れ、止まらなくなっている。

ウォーリーは、そのまま、下がって行った。


「お母様、笑ってください。ケイトは、今、ここにいるのですから。」と笑顔で、言う。


「嬉し涙よ。貴方を抱ける嬉し涙なの。私は、貴方が、この国に来て、謁見するまで、本当に生きているのか、確認出来る術は、持っていないの。


アーサー達は、リズが、《魂魄回帰》ソウルリバースを使った事で、貴方が生きている事を知る事も出来た。

そして、ゴールドスター・クレスト王家の紋章の者で、貴方と繋がっているわ。


でも、私は、リズを産んだだけ、血で繋がっているのに、貴方の生存を知る事も、出来なかった。


生まれた時に、リズを抱いたのは、一度だけ。産んだ夜に、リズは、連れ去られたのよ。


でも、連れ去られた事を知ったのは、一ヶ月も経った後なのよ。


ゴールドスター・クレスト王家の紋章の者でない、私には、教えなかったのよ。


でも、ゴールドスター・クレスト王家の紋章の者の力で、貴方に逢える事が出来、抱きしめる事も出来たの。

もう、二度と、手放しはしないわ。

リズ。」


「お母様。ケイトが、居なくなってから、苦しんだのですね。もう、黙って、居なくなる事は、しませんから。安心してください。

お母様が、苦しんでいる事も知らず、幸せに暮らしていました。

その暮らしを、大事にしていたのです。ごめんなさい。」


「リズを責めては、いないわ。リズが、幸せに暮らせていたのは、救いよ。

村では、どのように暮らしていたの。少しでもいいから、私に教えて頂戴。」とやっと、微笑んでくれた。


「そうですね。お母様、ケイトの名前は、キャサリなのですよ。ケイトは愛称なの。でも、キャサリンという事は、バクスター公爵様しか知らないの。」


「キャサリン、どうして、キャサリンと呼ばなかったの。

普通は、愛称は、家族とか、仲の良いものしか、呼ばないでしょ。」


「お母様、バードリズは、私を拾う前に、子供を亡くしたばかりだったの。キャサリンという子を愛称は、ケイティと呼んでいたの、ケイトを、拾って育てる事にしたときに、名前をキャサリンと愛称をケイトにしたの。だから、村のみんなも、キャサリンとは呼ばなかった。いつもケイトと呼んでいたの。


そして、平民として、暮らす為に、魔力を隠す事を教えてくれたのは、バクスター公爵様。

いつも、側にいてくれて、魔法の事も。文字も、言葉使いや、礼儀作法も全てを、バクスター公爵様から、習ったし、ケイトが、バードリズの側で暮らせるように、色々な事に力を貸してくれたの」


「バクスター公爵に感謝しないと、いけないわね。」と言っている時に、ケイトは、肩に掛けている、ポシェットをトントンと叩き、そっと、阻害認識魔法を解いた。


「お母様、このポシェットは、アトウッドキャクストンのリズバードが作ってくれました。

そして、その中は、マティー様から教えて貰った空間魔法を使って、魔力を吸い取る、髪飾りとペンダントを仕舞ってるのです。」と言いながら、髪飾りとペンダントを取り出した。


「これは、家族のモチーフです。

このペンダントは、本来は、三人が、揃って一つのモチーフになるの。お父さんが作って、この石は、マーぷが、マティー様が、手配してくれたのです。」


(いつもの様に、マーぷと言い掛けてしまった。

気をつけて、話さないといけないわ。)


「家族のモチーフを作る事は、アトウッドキャクストンでは、普通の事?」


「いいえ、違います。私が、魔力を吸い取る石を持っていても可笑しくない様にする為だったからなの。


それに、暮らしに困った事はないけれど、余裕のある暮らしでは、無かったから、誕生日のお祝いの時に、貰っていたの。」


「誕生日、祝い・・・・」


「お母様、ケイトの誕生日祝いの日、必ず、バードリズは、ケイトに、気付かれない様に気をつけて、ケイティのお墓に行っていたわ。その時は、必ず、私は、マティー様の所に居て、魔法の練習や、文字の読み書きなどをして、一日を過ごしていたの。


知っていても、聞く事は、しなかった。

だから、誕生日のお祝いをしてもらっても、嬉しいけれど、バードリズは、悲しさもあった事は、なんとなくは、気づいていたし、私が、バードリズをケイティから取り上げた様にも感じていた。


今は、三人並んで、お墓に入っているの。悲しいけれど、やっと、ケイティの両親を返す事が、出来たと思う様になれた。


バードリズも本当の子供として、育ててくれた。もし、魔力がなかったら、何も知らないで、バードリズに甘えていたと思う。

そうしたら、無理して、誕生日祝いをしていなかったかもしれないの」


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