第39話ミザリーの喜び
レイがモルトン冒険者ギルドに依頼をして数週間後…
ベルモルト辺境伯家のミザリーは領主婦人であると同時に辺境伯領を開拓してきた手腕で行政・農政・治水を取り仕切る重要な役割を担っていた。
しかし今のミザリーは2年前に最愛の息子を失くしてからは、政務に携わる事なくずっと部屋に引きこもっていた。
2年前……☆☆
ミザリーはレイが目の前で魔物に腹を串刺しにされ谷底に落ちて行く姿を目にして、自分も後を追うつもりで飛び込もうとしてアイラたちに止められ、護衛達に何度も説得され屋敷に戻って来た。
それからは生きる気力を無くし部屋に引きこもる日々を過ごしていた。
食事もとらなくなり寝込む日々が多くなったミザリーは、以前の凛とした高貴なオーラはなく、やせ細り生きる気力を失ったミザリーは酷い状態だった。
そして現在ベルモルト領は2年連続領地全体が農地生産量も減少している、本来ならこうした事態には、ミザリーが視察に赴き対策を講じて来た。
しかし領地が大変な状況にあってもミザリーはレイを失った事で憔悴してとても動ける状態ではなかった。
領民には申し訳ないと思いつつも、レイの事を思うと何もする気にはなれなかった。
レイあなたがいなくなってもうすぐ3年になるわ…
私は今もあなたがどこかで生きてると思ってる。
貴族院規則の追放処分に私たちに気をつかい姿を隠してるのではないの?
それともあの事件の事で姿を隠してるの?
でもせめて私にはあなたが生きてる知らせがほしい・・
私にはあなたが全てなのよお願い・・
コンコン
「ミザリー様モルトン冒険者ギルドから依頼で来たと言ってる冒険者が来ています。今門の所に待たせております」
モルトンの町?ずいぶん遠い所から来たのね何かしら?
「メリル一緒に来て頂戴気になるわ」
ミザリーが門の所に行くと3人の冒険者が立っていた。
冒険者って貴族でも態度を変えず偉そうであまりいい印象はないんだけど、この3人はそうでもないわね
一人の冒険者が前に出て丁寧に挨拶をする
「私はモルトン冒険者ギルドに籍を置くBランク冒険者のケイトと申します。
後ろの2人は同じくBランク冒険者でマルシェとリンです。
この度ギルドマスターからミザリー様に重要なお届け物を預かってまいりました。
途中の紛失は絶対許されないので、現在モルトン冒険者ギルドで最高ランクの私たちが、依頼を受けて届けに参りました。」
ギルドマスターからの直接依頼?どういう事かしら、領地に関する重要な何か?
「それは遠路はるばるお疲れさまでした、じゃ中で受け取ります」
ミザリーはメイドに命じ3人をお応接室に案内し、お茶とお茶菓子を出すように指示し、自身も部屋に戻り身なりを整え応接室に向かった。
応接室にミザリーが入ると、3人の冒険者は席に着かずミザリーが来るのを立ったまま待っていた。
あら?冒険者って勝手に座って出されたお茶を勝手に飲んでしゃべってるイメージだったんだけど、この人達全然違うわね。
「どうぞお座りになって」
じーー
「では失礼します」
メイドがお茶を出していく
コトコト
「どうぞ冷めないうちにお飲みになって」
「はい!ありがとうございます。では失礼していただきます」
ふーんいいわねこの子達・・
「それでギルマスがわざわざ届ける依頼の品って何かしら?」
「こちらになります」
え?マジックバック持ち?凄い冒険者ね
ニュー
コトン
「貴重なマジックバック持ちなのね。これはそれほど重要って事かしら?」
ケイトは事の経緯を正直に答える
「実は我々の所属するモルトン冒険者ギルドは、バイスル国に点在する冒険者ギルドと質は変わりませんでした。
1年近く前に、ある冒険者が起こした事件がきっかけで、モルトン冒険者ギルドは大きく変わりました。
それまで町の民ともトラブルの多かった冒険者も変わりました。
それは冒険者ギルドの組織体制が変わり私達冒険者の意識も変わりました。
現在モルトンでは冒険者と町民のトラブルがなくなり以前とは大きく変わりました。
そのきっかけとなった冒険者の依頼が、この荷物をミザリー様に必ず届けてほしいと受付で処理されました。
重要人物の冒険者の依頼とわかり、ギルドマスター案件になり私たちがお届けに参りました。
依頼の品はこの木箱と手紙です。どうぞお受け取り下さい」
ミザリーは渡された木箱と手紙を受け取ると、木箱の中身を確認し取り出す。
綺麗な器が6個ね、何かしら?
手紙を読めばわかるのかしら
ミザリーは手紙を読み始めると涙がこぼれる
【私はモルトン冒険者ギルドに所属するミレイと申します。ミザリー様にお願いがあり手紙を書きました。
今モルトンの町では孤児院が大変な事になっています。
孤児院は運営費が支払われず、孤児を見てる責任者が、孤児院を運営するためにいろんな事をして、子供達を食べさせてました。
ところがその責任者が病で倒れ、子供達をみる者がいなくなりました。
子供達は食べ物が次第になくなり、餓死寸前の時に、私がたまたま孤児院に行く機会があり責任者の女性と子供達を助ける事ができました。
ミザリー様が領地の孤児院のために考えられた援助支援が、悪い人達によって奪われています!
私にはどうする事もできません!悔しいです!
私は孤児院の子供たちを守るために、私が考えた洗剤を孤児院で作って、それを売り孤児院の運営資金にするつもりです。
しかし役人が来てその製造と販売は止められました。
このままでは大勢の孤児が死んでしまいます。
ミザリー様私達の作る洗剤の販売許可をお願いします。
木箱には私が作った洗剤を入れています。
是非試して下さい!使い方は容器に張り付けてる説明書を読んで下さい。
ミザリー様私も役に立てる事を見つけました。
ミザリー様もお身体気をつけてください。
追伸 ミザリー様のお身体が元気になるように、私が作った回復薬ヒールポーションとエナジーポーションを入れておきますのでお飲みください。
モルトン孤児院補佐ミレイ】
これは… 間違いないあの子ぅぅ…
… レイ… よかった生きていてくれて
メリルは手紙を読み始めて涙を流しだしたミザリーを見て、手紙の主が誰かを悟る。
『大好きなレイ様が生きている』と自身も目を潤ませる
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