オレの背中にある魔方陣は魔女に狙われ赫い龍には怒られる?!(旧タイトル:白き太陽と蒼き黒点と赫き月~少年と魔女の行く末を龍は見守る~)
珀武真由
第一章 赫龍との邂逅
第1話 少年は龍の掌で顧みる
「そうか、小僧。死ぬのか」
少年を視る龍はただひたすら大きい。赫々と燃える赤褐色の
眩い金緑色の瞳には古代魔法梵字がある。それは、神を示すとされる紋章を携えているのだが……。
そこに、気づく者は此処にはいない。
方や少年は齢十七、八ぐらいだろうか。
色肌白く、髪は茶か金髪か、光の反射により時折
耳の形は細く先が尖り……。
瞼を閉じていても分かるほどに端麗な顔立ち、身長は寝そべる状態で浮いているがそれでも長身だと窺える。
龍は、細く溜め息をつく。
少年を起こそうと頭を小突くが起きる気配はない。胸は縦に刺されたのだろうか? と思われる穴が開き、同時に無数の斬り傷も見受けられる。
(なるほど、この胸の傷が致命傷か……。少年は死……だが面妖な、この傷からワシに近い波動と匂いを感じるのだが気のせいか?)
龍はまた少年を起こそうと小突く。しかし反応は薄い。心臓の灯火は小さく、明らかに消えかかっている。
その身体は命を、終えようと。
……静寂が押し寄せる。
此処は龍に飛竜、多種多様の一族、
死した者共が
そこに漂う、
(さて、面妖な……、どうしてくれよう)
龍は少年を抓む。
そして、自分の大きな掌に乗せ視線を注ぐ。
「だ、レ?」
掠れた声を出すだけで起きようとせず、龍の掌の上で弄られようが転がされようがただぐったりする小さき者。
その姿に。龍は何故か苛立った。
『此処は人間が死んで良い場所では無い!
龍は自身が持つ緋色の爪を少年を死なすまいと、傷穴に埋め込む。龍の爪は彼の身体に馴染み、浸透し、傷は。
静かに閉じていく。
しばらくすると。
とくん、とくん……。
血の気ない顔色と蒼い唇は次第に赤みをさし、瞼が痙攣し始めた。
彼はゆっくり目を覚ます。
龍を捉えた
ふらつく彼は大きく口から息を吸い、大量の空気を肺いっぱい流し込んだ。
「ゲッハ、ガハ、はぁはぁ」
『起きたか。小僧』
「は、はぁ。あなたは!?」
少年は、目の前にいる龍にたじろいだ。我が身に起こった出来事を俯瞰し、周囲に気を張り詰め息を飲んでいる。
(ここは、いったい……どこ?)
この場所だけが世界と切り離されたように視覚さす少年はもう一度、辺りを見渡す。
周囲を窺う少年に龍が、応える。
『ここかぁ!? ここは我ら龍竜とされる一族が墓所よ、そして我はその標よ』
「
少年は意識が
『う~ん、少年には「何故」を訊ねるよりも直接的に頭を覗いた方が早いか?』
龍は辛そうな少年の顔を真正面に据え置いた。そこにある鈍く光る瞳に自身の瞳を重ね、強引に覗きにかかる。
問う者の脳裏に、少年の忌々しい記憶が入り込む。
一時が経ち、やがて少年の瞳からは大きな雫がこぼれ落ちた。
「お゛えっ! うっぐぷ、っはあ、はあ」
そして少年は
『ルキア……。そうか、お前はルキアというのだな』
訊ねる龍がいる。しかし少年は。
少年──ルキアは、否応なく忌まわしい記憶を覗かれそして……怒りに、震える。
口をきつく結うたが為、唇から血が垂れ、握る拳は爪が食い込み……。
(なぜまた視てしまったのだ? オレを庇い死んでゆく母の姿……)
ルキアの記憶には荒れ狂う父に幼い自身、母が襲われる姿がはっきり宿る。そして幼い身を庇い、死にいく最後の母が──、焼きついている。
(今でも鮮明に覚えている。哀しみ、痛み。忘れることの出来ないこの記憶にどれだけ苛まれたことか!!!)
ルキアは龍を睨み、直に。思いをぶつける。
「クソっ! 勝手に人の頭を覗きやがって!! お前に何の権利があるんだ!?」
口にすればするほど怒りは増し、吐く暴言と荒れる息がある。
「ここはどこだ。オレはこんな場所知らない。だってオレは
ルキアは胸を押さえ、開いていたはずの傷が閉じていたことに気付き、不思議に思う。
何度も何度も。
触ったり目で確認するが、あるはずの傷はどこにも無い。
しかし、その代わりにと云わんばかりにそこには赫い……。
(何だ? この赫い紋章は)
瞼をこすり、顔しかめる。傷が無くなった場所に赫い何かに似た紋様が刻印となり、肌に浮く体がある。
『すまんルキア……。ルキアだよな?』
名を呼ばれた少年は怪訝に龍を伺い、龍は龍でルキアの反応に吹き笑って詫びる。
「ああ、そうだが?」
『勝手に記憶を見てすまなかった。その紋はワシのよ。傷を塞ぐため、ワシが爪を胸に埋め込んだことが原因で出来た。ほれ』
龍は己の瞳をルキアの前に。ルキアはそこにある紋章を何回も見つめ、食い入る。
大きく見開かれた眼球に、納得する少年。
(この紋は……そうか、命を助けられたのか……)
だが、釈然としない。
納得しても納得出来ないルキアがいる。が、助けられたのは事実。
勝手にとはいえ……礼を、まだ言っていない。
「ああ、死にかけた所を助けられたのだな。すまないありがとう」
ルキアは素直に詫びると胸を見る。
「だがオレが、ここににいる理由はなんだ」
すると龍は、ルキアがここにいる理由を説明し始める。
『すまぬ、ルキア。お前が此処にいる原因はおそらくお前が刺された剣に原因がある!』
「剣?! あの親父のか?」
『そう、お前の父の剣はおそらく。お前の父が冒険者だった頃に我が与えた戦利品よ。我が躯体の一部で造られたであろう造物よ』
「何? どういうことだ」
『ああ……昔の、置き土産よ。とある兄弟の冒険者との戯れの……、戦いの置き土産』
「土産? 訳が分からん」
意味が解らないと言うルキアに拘わらず、龍は話し続ける。
『まぁ詳しくは叔父に聞け。
「! 叔父を知っているのか」
『ああ知っておる。そもそも剣を造ったのは小僧の叔父よ。そしてその剣がもたらす波動が。ワシとお前を結びつけた』
「叔父が? 波動?」
何も知らないルキアは何を言われてもぴんと来ない。ただ訊いたことを鵜呑みにするしかない。
龍が哀れみた視線をルキアに、送ってくる。
ルキアは龍の憐れみに気付くともう飽き飽きだとほざき、龍の掌上で胡座をかく。
「お前もそんな瞳でオレを……視るのか!」
『ああ哀れむさ。背に、禁術秘術の錬成陣を持つ者よ』
「!!」
龍は先ほどまでの気配と違い、冷ややかな目でルキアを観察しだす。
怒りを表していた少年はその威圧に怒りを鎮め、今は目の前にある畏怖を感じ唾を、息を、ごくり飲んだ。
緋く澄んだ綺麗な瞳は、ルキアを冷たく射貫く。
『そこには触れず帰そうと思ったのだが、やはり話すべきなのか……。お前の錬成陣に気づかず生かしたのはワシの失態。いや、違うなぁ』
「なんだよ、失態? オレに落ち度を問われても……」
(勝手に生き返らせたのは、そっちじゃないか……)
ルキアは龍が何を思っているのかを考え、龍の掌の上で身震いを起こす。
(……深刻な問題であろうことに間違いはない。オレの背中は魔物を産む禁忌だ。神に等しいこいつらには許せない代物だろう)
『でも生かしたものをそうやすやすは……』
龍の考えていることは無論、ルキアは知らないわからない。
だが、考えは違えど双方が思うことは一つ。
『この出逢いは偶然にして必然』
「この導きは、偶然にして必然」
一頭と一人は同じことを呟く。
『少年、いや小僧ルキアよ。その紋章もだがワシを見て何か思わぬか?』
「紋、赫い龍?」
龍の小言に反応し、真剣に頭を捻らすルキアに龍は咆哮し大いに笑う。
『見くびられたものよ。小僧の住まう大地ではワシは『伝説』として継がれておるのに』
「お前が伝説?」
ルキアは龍に訊ねようと立ち上がるが突然胸が苦しくなり、吐瀉する。
それと同時に辺りの
『ぬう! いかん小僧、時間切れだ。これ以上此処に留めて置くことは出来ん』
「う、もっと話し……」
『ああワシもしたいが骨が悲鳴を上げておる、小僧の身体が保たんよ』
赫い龍は苦しがるルキアを闇の中へ、ゆっくり手放す。
『小僧! 父の、ワシの剣を必ず取れ! その身に在る爪と剣が在ればまた相まみえる。そう遠いくはない近々……』
……龍の言葉を最後に、ルキアの意識は……。
暗闇から我返る──。
ルキアが目を覚ますと冷たい感触が肌に触れ、覚えある床が映る。
真っ赤な血に染まった象牙色の床──。
父と揉め、争い、剣で差し合い倒れ。
……父親は、寝そべったまま。ルキアは拳に力を入れ、床を叩いて起き上がる。
……そして、父親の遺体を冷たく見下ろした。
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