第7話 質疑応答
カズマは死んだはずであった。
本人も前々世の切腹以来の死に結びつく痛みと絶望を遠のく意識の中で感じていたから、短い人生だったと諦めて死を受け入れたのだ。
だから、脳内にはっきりと伝わってくる声に驚いていた。
「スキル『ゴーストサムライ』の発動により、能力『ハラキリ完全耐性』を取得しました。これにより、お腹を負傷する事は今後ありません。一部、ステータスにプラス補正がされました。また、特別能力『打ち首完全耐性』を取得しました。これにより、首を負傷する事は今後ありません。一部、ステータス補正がされました」
「……えっと、あなたは誰でござるか?」
カズマは声の主に聞き返した。
と言っても、脳内で語りかけている状態だ。
「私は、『&%$#』です」
機械的な声はそう答えた。
「え?」
何と言ったか聞き取れず聞き返した。
「スキル『ゴーストサムライ』は、今回初めてこの世界に生まれたスキルですので、初回サービスとして自動音声による説明する機能が付与されています。その為の声です」
「それじゃあ、僕はスキルが使えるようになったのでござるか?」
「はい」
「ちなみに『ゴーストサムライ』とはどんなスキルでござる?」
「前々世と前世のあなたがより強く反映されたスキルとなっております」
「反映?つまりどういう事?」
「それはスキルを成長させていき、ご自身でご理解ください。こちらも全てにお答えする事は出来ません」
「……それじゃあ、答えられる範囲で。──『ハラキリ完全耐性』とは何でござるか?」
「先程申し上げました」
「……それじゃあ、『打ち首完全耐性』も?」
「以下同じです」
「……他にも能力はあるのかな?」
「それはスキルを成長させてご確認ください。以上です」
声はそう答えると、沈黙した。
このまま、終わりそうだと思ったカズマは慌てて声を掛ける。
「……ちょっと待って!──……僕は生きているでござるか?」
カズマは誰とわからぬ辻斬りに遭遇し、死んだはずなのを思い出した。
「スキル発動の為に一度亡くなりました。ですが、スキル発動の条件を満たしたので、すぐに再生されました」
沈黙したと思った世界の声は意外にすぐ答えてくれる。
「一度死ぬのが発動条件って……。前世の知識を持っていても、そんな発動条件を試す馬鹿はおらぬでござるよ?」
カズマは無茶な発動条件を指摘すると抗議した。
「死ぬだけでは発動しません。『ハラキリによる死』のみが発動条件です」
「そんなのムリゲーでござるよ!」
カズマは前世の知識で思わず『声』にツッコミを入れた。
「──ご質問が無ければ、説明は終了させていただきます。それではカズマ様、素晴らしい異世界ライフをお過ごしください」
声はそう言うと、完全に沈黙する。
「ハラキリから始まる異世界ライフが素晴らしいわけがあるか!」
と再度ツッコミを入れると、カズマは意識を取り戻すのであった。
カズマは家の庭に横になっていた。
斬られて倒れた時のままだ。
しかし、周囲には派手に噴き出したはずの血の跡は一切なく、カズマが一人、庭でうたた寝をしていたかのような状態だ。
カズマはハッとすると、お腹を両手で確認した。
「……痛くない?」
カズマは上半身を起こしてお腹を再度確認する。
お腹に傷はないが、服は真横一文字に斬られた跡があった。
「夢?……いや、それにしては、現実的過ぎて、前々世の切腹を思い出す痛みだった気がする……」
カズマは白昼夢を見たのかという狐につままれた思いになったが、足元に落ちている木剣は綺麗に真っ二つに斬られていた。
「やっぱり夢じゃない……。これは夢じゃない……!お母さんに知らせなきゃ!」
カズマは立ち上がると室内に飛び込んだ。
またあの男に遭遇したら戦う術が必要である。
だから、脇差しを取りに戻った。
脇差しは普段、父ランスロットが預かっていて、地下の隠し部屋に置いてある。
毎晩そこからランスロットが取り出してきて、カズマに握らせるのだ。
カズマは地下に駆けおりていく。
「ここのはずだけど……。開かない!」
扉があるはずの壁は押しても叩いてもうんともすんとも反応しない。
どうやら、隠れたスイッチがあるのかもしれないが、カズマでは見つけられなかった。
「こうしてる間にもお母さんが危険かもしれないのに!」
隠し部屋の扉を開ける術がわからないカズマは、一生懸命開けようと右往左往していたが、開けるのを諦めた。
そして、台所に向かうと包丁を掴んで外に走るのであった。
母セイラは買い物の為に領都に馬で向かったはずだから、帰り道にあの危険な辻斬り男と遭遇する可能性が高い。
カズマは小さい体で懸命に走った。
母セイラがそう簡単に負けるとは思わないが、あの男は子供のカズマ相手に容赦なく剣を振るうような非道さだ。
それに、一振り目をカズマはどうにか躱せたが、それは前々世で同じような剣を振るう男と出会っていてその事が頭を過ぎり、咄嗟に体が動いただけであったから、次また同じように躱せるとは思えない程の剣の使い手だと感じていた。
きっと有名な剣士に違いない。
それも相当な数の相手を斬っている剣士だ。
カズマは包丁を握り締めて走りながら、母の無事を願うのであった。
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