第5話 スキル発動の有無の差
この異世界で六歳からの成長速度は目まぐるしいものがある。
それがスキルによるステータス補正だ。
スキルの発動条件を満たしてスキルを成長させていくという事は、前世で言うところの長所を伸ばす事に似ている。
もちろん、スキルもピンキリなので、成長速度も能力の限界も人それぞれだが、この時期は誰もが成長の真っ只中であるから、カズマの同年代の子供達はカズマを引き離すように急速に才能を開花させていく。
その際に微量のステータス補正なども付いていくのだが、この歳の微量は馬鹿にならない。
カズマはその歳の割に、普段から努力をして他所の子供より、力も技量も速さも数段上回っていたのだが、洗礼の儀を境に容易に並び追い超されはじめた。
その為、これまでカズマに負けていた子供達は力で上回った事に勢いづく。
「これで腕相撲は完全に俺がカズマより上だぜ!」
「俺も、かけっこで負けなくなった!」
「これからは、俺達が上な!」
「悔しかったら早くスキルを発動させてみろよ!」
子供達はいつも遊びで勝てなかったカズマを超えた事で有頂天になり馬鹿にした。
「……」
カズマは前世の記憶を得た事で、少し考え方が大人になったものの、肉体は子供であり、精神はそれに引っ張られる。
だから、悔しくないわけがなかった。
「今なら、剣でも負ける気がしないぜ!」
「俺も!」
「よし、チャンバラごっこしようぜ!」
チャンバラごっこは、カズマが名付けたネーミングで、子供達の間でも浸透した遊びだ。
文字通り剣で打ち合って勝負を決める遊びで、カズマが最も得意とするものであったから、子供達はそれで勝利し、カズマを完全に屈服しようと企んだ。
残酷な提案だったが、カズマは口をキッと引き結び、意を決したかのように「……やろう」と、応じる。
子供社会での底辺が決まる戦いだ。
カズマにとっては命懸けの戦いである。
カズマに腕相撲で負けなくなった力自慢の子供が、木剣を握って構えた。
「ほら、構えろよ。なんならいつものハンデをそっちにやってもいいんだぜ?」
力自慢の子供はそう言うと、木剣を片手で持った。
普段はカズマが片手で木剣を持つ事で他の子供達といい勝負になっていたのだが、形勢が逆転した今、力自慢の子供は片手でも自由自在に木剣を振れるから、カズマの優位はないだろう。
「くっ……」
カズマはこの屈辱に悔しい気持ちでいっぱいであったが、その気持ちを抑え込んだ。
「……心頭滅却だ」
カズマはそう自分を落ちつかせるようにつぶやく。
そして、自分の劣勢を自覚すると、木剣を握る両手から力を抜き、大きく息を吐いた。
「おい、誰か開始の合図な!」
力自慢の子供は、余裕綽々で他の子供に開始を促した。
「じゃあ、──始め!」
他の子供が開始を宣言すると、それと同時に洗礼の儀の前とは比べものにならないくらいの反応速度で力自慢の子供がカズマに距離を縮めて木剣を振るった。
カズマは両手で構えた木剣で防いだが、その一撃一撃が早く、重く、すぐに手が痺れてくるほどだ。
これほどにもスキルの発動の有無で差が出るものなのかと、カズマは驚き、慌て、恐怖した。
それほどに差が歴然なのだ。
子供の精神状態ではこんな一方的な攻撃に怯えないわけがない。
だが、カズマには前世の知識があり、その知識と子供の精神がせめぎ合っていた。
こんなの絶対に勝てない!
いや、落ち着け!冷静に対処すればいくらでもチャンスはあるはずだ。
もう腕が痺れてしまっているから無理!
いや、お前は前世で圧倒的強者にも勝ってきたはずだ。
防戦一方のカズマは木剣を放り出して逃げたい気持ちを抑え、立ち向かう気持ちが勝った。
そして、一歩後方に大きく飛んで下がると、間を空けた。
力自慢の子供も力任せの攻撃で息が上がっていたから、呼吸を整える。
そこでカズマは、スッと木剣を上段に構えた。
体ががら空きの攻めの構えである。
力自慢の子供はその隙だらけの構えに「?」と、首を傾げたが、最後のあがきだと思ったのだろう。
容赦なく力任せの一振りでがら空きの胴体を狙う為に距離を詰めた。
カズマはこれを待っていた。
攻撃される場所に誘い込んで、相手のタイミングに合わせて自分は半身で一歩踏み込み、片手で木剣を相手の頭上に振るった。
カズマの相手より一瞬速く振るった攻撃は相手の子供の頭に綺麗に入る。
力自慢の子供は、「痛ぁー!」と、木剣を離して頭を押さえた。
「勝負あり!」
開始宣言をした子供が、止めに入る。
「……勝った」
カズマは大きく息をすると、その場に座り込んだ。
カズマも体力の限界だった。
だが、手応えも感じていた。
それは圧倒的劣勢な実力差があっても立ち回り一つで、逆転する事も十分可能だという事だ。
力自慢の子供には完全に実力で圧倒されていた。
だが、前世の経験を知識として身に付けていた分では、こちらが優位だったのだ。
それが一瞬の勝負で生かされた。
これが殺し合いだったら、その差は致命的であったから、立ち回りと度胸でこちらの世界でも十分やれるのだと、六歳のカズマは改めて体に覚え込むのであった。
この日の経験から、カズマはスキルの発動条件を探しつつ、剣の修練に励む。
前世の経験の知識を今世のカズマの体に叩き込む作業を始めたのだ。
これからも能力で劣る自分は同じ状況に陥る事が増えると思ったから、立ち回りを磨く為に、前々世、前世の知識と経験を今の幼い自分の頭と体そして心に昇華させようとカズマは必死であった。
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