第4話 両親からの贈り物

 カズマは洗礼の儀の時に、前世の記憶を取り戻した。


 いや、入手したという方が正しいだろうか?


 普通は前世の記憶を持っている事の方がおかしいのだから。


 そして、現世の自分の行動に合点がいった。


 六歳になってようやく、自分の不思議な行動の答え合わせが出来た思いだ。


 剣の修練も、あれは刀の振り方だったのだと納得する。


 そして、自分のスキルが『ゴーストサムライ』というものだとわかって、それも合点がいく。


 厳密に言えば、前世は「幽霊」であり、前々世がサムライだったのだ。


 ゴーストは日本語で幽霊だ。


 それは前世の「幽霊」時代に仇である一族の背後霊として代々憑りついて来たからそれくらいは学んで知識としてある。


 だから、カズマは前々世、前世そして、異世界転生後の今世と数百年の歴史を見てきた事になるから、楽観的になっていた。


 特に「幽霊」時代後半の本から得た知識のお陰で、今世の自分が異世界転生者である事もすぐに理解出来た。


 つまり、知らなくて困惑する事がほとんどないのだ。


 これだけでも心にゆとりができる。


 前世の最後に憑りついていた青年は特にこの異世界転生に対する対応を記した本を沢山読んでいて、自分も背後霊としてそれを読んでいたから余裕だ。


 困った時はその知識に頼ればいい。


 カズマはそう考えると、今の自分にしか出来ない事をやることにした。


 それは日々の修練である。


 前々世の記憶から知識として、剣の振り方も理解しているが、肝心の体が六歳児である。


 いくら洗練された動きを理解していても、体が付いて来ないと意味が無いのだ。


 だから、今は剣を振る事に集中するのであった。


 その一方で──。


 カズマは、両親に刀の形状を伝えていた。


 物知りの父親でも詳しくは知らない武器の形状だ。


 神父が教えてくれた「カタナ」だとは伝えず、自分が欲しい形状の武器として伝えた。


 カズマがそれを伝えると、両親は驚いたように納得した。


「やはりそうだったか!カズマの剣を振る動作から、そういう形状の武器を持たせるのが相応しいだろうと、お母さんと話していたんだ」


「ええ。カズマ、安心して。すでにその形状の武器はあなたが四歳の時に私達の知り合いの王都の名匠に頼んで作ってもらっているから。あなたの洗礼の儀の日に合わせて届くようにおくってもらっているからそろそろ到着するはずよ」


 母セイラも偶然の一致に微笑んで答えるのであった。



 それから数日後、両親が王都に注文し、二年がかりで制作された「刀」が到着した。


 木箱に入った二本のうち、長い方の刀を父ランスロットが、抜いて確認する。


「うん、注文通りだな。片刃の剣だから幅は半分、でも、耐久力が気になるから通常の剣より太めに。そして、切れ味重視の為に使用する金属も研究してもらったんだぞ?さすが、王都の名匠鍛冶師だな」


「ふふふ。あなた、細かい注文は私がしたのよ?」


 自慢気に語る夫を微笑ましく指摘する。


「お、俺も、ほとんど同意見だったじゃないか!」


 そう言うと笑う。


 そして、父ランスロットは、短い方の刀、脇差しをカズマに渡す。


「この長い方は、大人になった時に使用しなさい。子供の内は、この短い方で鍛錬するんだ」


 どうやら、サムライの二本差しを意識したのではなく、子供用、大人用のつもりで作らせたようだ。


 その偶然にカズマは驚きながらも脇差しを受け取る。


 そこでカズマは前々世の記憶が鮮明に蘇った。


 それは切腹の瞬間だ。


 無実の罪を着せられ、弁明も許されずその日の内に腹を斬るように命じられたその時の悔しい気持ちが昨日の事のように思い出される。


「どうした、カズマ?望むものではなかったか?」


 父ランスロットが暗い表情のカズマに気づいて声を掛けた。


「……え?──あ、大丈夫でござる、父上!」


「ござる?父上?」


 普段お父さんと呼ばれていたから、父ランスロットは聞き返す。


「あ、お父さん」


 カズマは慌てて言い直した。


「ふふふ。ござる?って、変な語尾ね。そんな遊びが流行っているのかしら?」


 母セイラはカズマの口調がよほどおかしかったのか、クスクスと笑うのであった。


「父上と呼ばれるのも、悪くないな」


 父ランスロットは一人、嬉しそうにしている。


「じゃあ、私は母上ね?でも、私はいつも通りお母さんが良いかな」


 母セイラは、笑顔でそう答えると、カズマに脇差しを抜いて振ってみるように促した。


 カズマは脇差しを腰に差すと半身の姿勢を取り、スッと無駄のない動きで抜く、と斬るのを同時に行う。


 だが、カズマはまだ、子供で非力だから、脇差しでもずっしりと重く、自分の知っている完璧な居合が出来なかった。


「……六歳でこの動きは上出来ね。私に似たのかしら?」


 母セイラがカズマの動きに満足したように頷く。


「おいおい!容姿はお前似だが、思慮深く洗練された動きなんかは俺に似ているだろう?」


 父ランスロットが、聞き捨てならないとツッコミを入れる。


「ちょっと、誰が剣だけが取り柄の雌ゴリラよ!?」


「いや、誰もそこまでは言ってないだろ!」


「思ってはいるでしょ!?」


「……思ってないよ!」


 お父さん、そこでの一瞬の間は致命的だよ?


 カズマは一瞬の間を逃さず、内心でツッコミを入れた。


「その間は何よ!あなた、副団長時代から私の事雌ゴリラって、愚痴こぼしてたの知っているんだからね!?」


「誰だそんな告げ口した奴は!?」


「ほら、認めた!」


「!──いや、お前はどんなに強くて男勝りでも、俺にとっては最愛の女性なんだよ!」


「──もう、やだ。あなた……」


 基本、ラブラブな二人である。


 父ランスロットの言葉に喧嘩になりそうな雰囲気から一気に母セイラはデレた。


 はいはい、ご馳走様でござる。


 カズマは苦笑して内心でそうツッコミを入れて拝む素振りを見せると、庭で脇差しを一心に振り始めるのであった。

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