日本軍後退
当初より日本軍は、限界に達しており前線に十分な兵力を貼り付けられるほど補給能力が無く、過剰な兵力を後方へ下げていた。
攻撃があればすぐに後方、補給を受けやすい営口や旅順、大石橋近辺に配備された戦力が鉄道で輸送され、救援に赴く手はずだった。
だが、大韓帝国の反乱を鎮圧するため、満州軍を維持する補給線を確実に確保するために用意した戦力は全て朝鮮半島へ送られてしまった。
結果、前線への救援に送り込める兵力が無かった。
しかも、半島確保のため動かした大軍、最終的に二〇万に及ぶ部隊を指揮するため、第三軍の乃木大将を司令部と一緒に送り込んでいた。
本来なら韓国駐箚軍の長谷川大将が指揮するべきだが、ソウルの司令部を包囲されているため、増援部隊の指揮が出来ない。
制圧作戦の実質的な指揮を行っているのが前第三軍参謀長だった伊地知少将だったこともあり乃木と幕僚の派遣は致し方なかった。
日本軍も全てを絞り出していたため、司令部幕僚となる人物は全て配置していたため、代わりになるような人材が残っていなかったため第三軍司令部を鎮圧軍司令部に使わざるを得なかった。
そのため、西側の開けた平野、本来であれば第三軍が守備する箇所へ行くロシア軍の攻勢を受け止めるだけの力は日本満州軍には無かった。
勿論、日本軍は各所に機関銃を配備した陣地を構築しており、後方からの重砲や列車砲の支援もあって激しく抵抗した。
だが、大軍の前には孤立した陣地など孤島も同じ。
陣地の間を広く取っていたため、間からロシア軍に侵入され、各所で陣地は孤立。
残された日本軍前線陣地はロシア軍と一戦した後、弾薬不足もあり、ロシア軍の隙を見て後退を開始した。
ロシア軍の追撃、好機とみたコサックの襲撃もあって、やがて全面撤退となり日本軍の後退スピードは増していき、釣られてロシア軍の進撃速度も上がっていく。
結果、ロシア軍の攻撃は成功した。
むしろ攻撃を成功させたロシア軍の方が驚いた。
あれほど精強で粘り強い日本軍が後退するなど初めての事だったからだ。
「追撃だ! 今をおいて好機はないぞ! 進撃して今までの汚名を返上するのだ! 大陸から黄色い猿を追い落とせ!」
直ちにリネウィッチ大将は追撃を命令し、ロシア軍は急速に進撃した。
こうなるとクロパトキンも後方に待機していることは出来ず、南下を始めた。
これまで北へ北へと逃げていたロシア軍が初めて南下し進撃する。
快進撃に将兵の足取りは軽かった。
一方の日本軍は初めての敗退に動揺が激しく、後退も早かった上、混乱していたこともあり、新たな防御線も作れずひたすら南下。
日本軍の後退を見たロシア軍の追撃は勢いづいた。
気がつけばロシア軍は当初の作戦計画を超え、先の会戦で放棄した奉天の北方まで進撃していた。
しかも、日本軍は朝鮮半島の反乱に対応するため、兵力が無くなっていたこともあり、新たな防衛陣地の構築さえ難しい。
奉天北方でロシア軍を止める事が出来ず、日本軍は後退を続けた。
あまりの敗走に日本軍をここまで引っ張ってきた総参謀長児玉大将は頭を抱えて狼狽えた。
事ここに至って、満州軍総司令官大山元帥は奉天の放棄を決定。
満州軍に全面後退を命じた。
勿論、手をこまねいているばかりではなかった。
奉天南方にある奉天会戦で使ったロシア側の陣地と日本軍の陣地を使っての防御を考えた。
奉天市内に籠城する事を進言した参謀もいたが、多数の市民を巻き込むこと、市民に死傷者が出て国際的な非難が日本軍に向かうことを恐れた大山は許さず、全ての部隊を奉天から撤退させるよう命じた。
日本軍は撤退を行い、新たな防御線を作りつつあった。
ロシア軍は放棄された奉天へ無血入城。
奪回して気勢を上げた。
それでもロシア軍は止まることはせず、更に進撃を続け日本軍との戦闘を望んだ。
日本軍は何とか兵力を集めて抵抗しようとするが、勢いに乗るロシア軍を前に、勝算は無きに等しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます