旅順先制奇襲攻撃
「ロシア艦隊に接近!」
哨戒中の駆逐艦二隻を沈めた鯉之助率いる駆逐隊はロシア太平洋艦隊に接近する。
「戦艦三隻、巡洋艦三隻が傾斜しています!」
見張り員が戦況を報告してくる。
思ったよりもロシア側の損害が多かった。
史実では戦艦レトヴィザンとツェザレウィッチ及び巡洋艦パルラーダを撃破しただけだった。
だが、大連に向かうはずだった第四と第五駆逐隊が旅順攻撃に加わった事によって戦果が挙がり、敵の混乱も増しているようだった。
「このまま突入して、敵の腸をえぐり出す」
「敵の戦列に入り込むのですか」
鯉之助の命令にいつも無表情な艦長は珍しく驚きの声を上げる。
「それが目的だ。奇襲で反撃の無い今しか突入できない。確実に沈めるぞ」
「了解」
鯉之助の命令で艦長は機関室に命じた。
宮原式重油專焼缶への燃料バルブを全開にして火勢を上げて更に走らせる。
そのうち、敵もこちらに気が付いて散発的に砲撃を始めた。
「砲術長、好きなだけ撃って良いぞ。反撃だ」
「宜候!」
金田大尉は射撃を再開する。戦艦を装甲ではじき返されるだけだが非装甲区画には十分な威力だし、混乱させることが目的だ。
「目標を見つけた」
レトウィザンの左舷を通りすぎて併走すると、後ろの列に向かって鯉之助は指し示す。
「前方にいる奥の二隻をやるぞ! 二本ずつ撃ち込め!」
「あれですか?」
二本のマスト、二本の煙突を持つ商船のような小型艦を見て艦長はいぶかしんだ。
「そうだ。最重要の艦だ。砲撃と雷撃を浴びせろ!」
「は、はい」
直ぐに砲術長に指示が飛び、砲撃が集中する。至近距離の為、直ぐに多数の命中弾が出る。
魚雷を発射しようとしたとき突然、大爆発を起こした。
「搭載していた機雷に誘爆したな」
機雷敷設艦アムール。三〇〇発の機雷を搭載し、高速で敷設できる能力を持つ世界初の機雷敷設艦だ。
これまでの船だと機雷は敷設箇所に一々停止して一つずつ敷設しなければならなかった。
しかしアムールはオーバーハングした艦尾から機雷投下レールを伝って安全な後方へ投下出来るため、航行しながらの敷設が可能となっている。
こいつの敷設した機雷により、帝国海軍の戦艦初瀬と八島が五月に沈むはずだった。
だが吹き飛んだため、そのようなことは無い。
「もう一隻も沈めるぞ。狙いを変更しろ」
「宜候!」
前方に停泊していた姉妹艦のエニセイも鯉之助の攻撃を受け、姉の後を追って数分で爆発沈没した。
「よし、十分だ、離脱する。水雷長、魚雷を放て! その後、取舵一杯」
二隻の沈没を確認した鯉之助は艦を左に旋回させ巡洋艦のディアナとバヤーンに向かって魚雷を二本ずつ放った。
一本残したのは、敵が追撃してきた時のことを考えての事だ。
次発装填装置など開発されていないため、母船か母港に戻らないと魚雷の際装填は不可能。味方と合流するまで戦力を保持するための処置だ。
「命中まで三〇秒」
距離と雷速から命中までの時間を水雷長が計算し報告する。
僅か三〇秒ほどだが、長く感じる。
「時間です」
命中時間になっても爆発は起きない。失敗したかと思った時、二隻に水柱が上がった。
「命中!」
大声で見張り員が報告すると艦橋内に歓声が上がった。
自分たちが挙げた戦果に乗員は驚喜する。
「よし、撤退するぞ。南方へ。信号弾青上げろ」
青の信号弾は撤退の合図だ。
魚雷を撃ち尽くしたら撤退するように命じているが、旗艦に続いて船列の間に入り込んだ駆逐艦も居る。混戦の中で忘れているかも知れず撤退の合図を出す。
「長官。残りの魚雷を連中に撃ち込んでも良いですか」
「よし在庫一掃だ。撃ってしまえ」
アムールに使うはずだった四本の魚雷を敵が固まっているあたりに撃ち込んだ。
打ち出された四本の魚雷が雷跡を残して敵艦に伸びていき水柱を上げた。
「命中!」
魚雷の命中に艦内から歓声が上がった。
「俺たちの攻撃は終了だ。第一二駆逐隊を援護する。砲術長、さよならの挨拶だ。砲台へ撃ち込め」
「宜候!」
金田大尉の操作で砲塔が周囲の陸上砲台に向かって砲口を向け発砲した。
コンクリートで固められた砲台には被害は無かったが、ようやく反撃を開始した。
しかし、ロシア艦隊に突撃している中で発砲したため、ロシア艦も巻き込む。
陸上砲台からの砲撃を受けたロシア艦隊は裏切りとという言葉がどこからともなく流れ、同士討ちを始める始末だった。
そこへ最後の攻撃を仕掛けるべく明日香率いる第一二駆逐隊が忍び寄る。
激しく砲火を放ちながら、取り舵を取りつつ襲撃行動を行い、各艦から四本ずつ合計一六発の魚雷を発射、ロシア艦隊に浴びせた。
魚雷は戦艦の列に次々と命中
暗くて確認できなかったが、後に戦艦レトウィザン、ポベーダ、ペドロハプロロプスク、ペレスヴェート、ポルタワの各艦に命中した。
「相変わらず激しい戦闘をやるな明日香は」
上げた戦果を見て鯉之助は呆れる。
有象無象の支援艦艇や防護巡洋艦なんて攻撃しているんじゃないわよ、バーカ、とか言われそうだが、史実を知っているだけに機雷敷設艦を放っておくことは出来ない。
ここは明日香の罵声を甘受することにする。
「よし、逃げるぞ。砲術長、赤の信号弾を放て」
全作戦終了即時離脱せよ、を意味する赤の信号弾を放った。
この信号弾を見て各艦は連合艦隊本隊と合流するべく離脱を始めるだろう。
もっとも、第一二駆逐隊はまだ戦意が衰えず旅順の砲台に向かって砲火を浴びせている。
射程外になるまで砲撃を続けており、明日香の戦意を鯉之助は垣間見た。
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