第50話 いざ、異世界へ!
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記念すべき50話目です!
今回はフィエリティーゼへと転生するまでを書いたので長めになっています。
急ぎ足になっている気もしなくはないですが、とりあえずこれで異世界へと転生させることが出来ました。
ここまで続けてこられたのも、いつも応援してくださる読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございました!!
次回からは転生先でのお話になります。
これからも本作をどうぞよろしくお願いします!
炬燵猫
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グラファルトの胸元からなんとか顔を離す事ができた俺は、そのまま他愛もない会話を楽しんだ後、すっかり忘れていた体術について学ぼうとグラファルトに声を掛ける。
「あ、そういえば体術って何を教えてくれるんだ?」
「ん? 特にないが? 力加減に関しても、藍は既に感覚的に掴んでおるみたいだしな……戦闘に関してはまだまだ拙い所が多いが、今回の作戦には特に支障はないから問題ないだろう」
「じゃあなんで体術の担当になりたかったんだよ……」
ミラの話では泣いてまで縋っていたらしいからな。
そこまでして担当したかったって事は、何か重要な用事があるに決まって……
「そんなの――お前の傍に長く居たいからに決まっているだろう?」
「なんだその可愛い理由は!?」
今となっては俺の足の上が定位置となったグラファルトは、向かい合っている状態で首を傾げてこちらを見ている。
俺はそんなグラファルトを見て溜息を吐いた後、その白銀の頭を撫でるのであった。
……認めよう、グラファルトは可愛い生き物だ。
以前まではその幼さを残した見た目に対してそう思っていた。
しかし、今は違う。
この白銀の竜はその性格も含めて可愛い生き物なんだ。
純粋に、真っ直ぐに好意をぶつけてくるグラファルトに俺は抱きしめたくなる衝動をなんとか押さえつけて、ひたすらに白銀の頭を撫で続けた。
耐えろ……耐えるんだ……制空藍。
「そうか、我は可愛いのか……えへへっ」
「ぐぅ……!!」
「ど、どうしたのだ!? これ、唇を噛むでない!! 血が出ておるぞ!?」
耐えろォ……!! 耐えるんだァ……!!
頑張れ藍、お前は今までファンカレアや黒椿、そしてミラという美女たちの攻撃に耐えてきたんだ……!! 今回も耐えられ――。
「あ、あの……藍? 我としては嬉しいのだが、抱きしめられると治療が出来ないぞ?」
「……え?」
その声で俺は我に帰る。
俺の目下には少しだけ恥ずかしそうにしているグラファルトの顔があり、グラファルトが顔を赤らめている原因は、俺がグラファルトの体を抱きしめているからであった。
「くっ、我慢できなかったのか」
「ど、どうしたのだ? 少し様子が変だぞ……」
「もういい、俺は我慢しないことにする」
もうこうなれば思いっきり抱きしめよう。
そう思い、俺はグラファルトを抱きしめる両手にさらに力を込める。
「ひゃっ!? こ、これッ!! いきなり力を込めるな!!」
「あーグラファルトは可愛いなー」
「〜〜ッ!?」
俺がグラファルトの耳元でそう呟くと、一瞬グラファルトの体がビクッと震えたが、特に抵抗する様子もないのでしばらくの間、俺はグラファルトを抱きしめながら今まで我慢していた物を開放するように「可愛い」と連呼していた。
尚、それを10分くらい続けていたら、赤面して限界を迎えたグラファルトの首噛みを喰らうことになった。
グラファルトに謝罪をした後、俺たちはミラと合流してそのまま三人でファンカレアと黒椿がいるであろう場所まで歩き始める。
しばらく歩き続けていると、奥の方にテーブルを囲んでいる二人の人影が見え始めた。
そうして俺たち三人はファンカレアと黒椿に合流して、二人と同じくテーブルを前に席に着く。
そこで、俺とグラファルトは恋人であるファンカレアと黒椿の二人に俺たちの気持ちについて相談することにした。
恋人に、新しい恋人候補を紹介するという地球ではありえなかった光景だ。正直修羅場になるんじゃないかとハラハラしていたが、そんなことにはならなかった。
「……いいんじゃないかな? 僕は歓迎するよ!」
「私としても問題はありません、グラファルトなら大歓迎です」
お、おお……結構あっさり許されてしまった。
隣で緊張して青ざめていたグラファルトも、二人の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべている。
話を聞くと、黒椿とファンカレアはそうなると有難いとも思っていたみたいだ。
その理由は単純で、俺とグラファルトの共命が関係している。
片方が死ぬと、もう片方も死んでしまう状態の二人が別々に行動することは何としても避けたかったらしい。
そういう訳で、俺とグラファルトが恋人同士になってくれるのは大変有難いのだとか。
あ、もちろんそれだけではなく、純粋にグラファルトの人柄も好ましいみたい。現に今目の前で恋人である三人は楽しそうにお茶を飲みながら会話をしている。
こうして、俺はグラファルトを三人目の恋人として迎え入れることとなり、次の訓練である魔力について学ぶことになった。
魔力の訓練はファンカレアと黒椿が二人で担当してくれるらしい。
俺は今回行うことになった訓練の中で一番難しいのがこの魔力の訓練だと思っていたのだが、それを二人に話すと二人は笑いながらそれを否定した。
「そんなことはないよ? 一番難しいのはスキルの方だと思う」
「そうですね、魔力に関してはフィエリティーゼの子供達でも簡単に習うことが出来ますから。それに比べてスキルは独学で学ぶしかないのが現状ですからね」
ん? 同じスキルを使える人に教えてもらうとかじゃダメなのかな?
ファンカレアにそう聞いてみると、少しだけ困ったような表情をしてファンカレアは答えてくれた。
「魔力と違って誰でも持っている訳ではありませんからね。それとスキルは個人情報でもありますから、フィエリティーゼではあまり人に教えることはないんですよ。教えるのは家族や仲間と言った身内だけというのが暗黙のルールみたいです」
「なるほど」
「後はそうですね……スキルは感覚的修練が必要な代物であり、その感覚は人によって様々です。だからこそ、教えるのが難しいんですよ」
だからミラの訓練は全部一人でやらなきゃダメだったのか。
そう考えると、ミラの言っていた数をこなすっていうのもわかる気がする。
「さて、それじゃあ魔力操作について始めようか! と言っても、藍は魔力は操れると思うから魔法の訓練がメインだけどね」
「え、俺って魔力を操れてるのか?」
「……何言ってるの? スキルの訓練をしてる時に使ったでしょ?」
「……あっ」
黒椿の言葉に俺はすっかり勘違いしていたことを理解する。
そっか、漆黒の魔力を操れるならそれは魔力を操ることができるってことなのか。
【漆黒の略奪者】を使ってるって意識してたから言われるまで気づかなかった。
「試しに掌に魔力を出してみなよ。そうだなー、赤とかわかりやすいと思うよ」
「藍くんはグラファルトの持っている【魔法属性:全】を保有していますから、問題なく【赤魔力】を使えるはずですよ」
どうやら【魔法属性:全】という特殊スキルを持っていると、通常は一色しか扱うことのできない魔力を六色に増やし自在に扱えるようになるらしい。
二人の言葉に従い炎をイメージして掌に意識を向けると、右の掌に赤く燃え上がる魔力の炎が現れた。
「おお、これって熱くないんだな」
「自分の魔力で作ったモノだからだよ。それが他人の魔力で出来たモノだと炎なら熱く、氷なら冷たく感じるよ」
「自分の出した炎で焼けるなんて洒落にならないもんな……」
こうして、魔法の訓練は思っていたよりも簡単に進んでいった。
魔力の訓練は一言で言うと、楽しかった。
てっきり長ったらしい詠唱とか覚えないとダメなのかなって思っていたけど、そういうわけではないらしい。
フィエリティーゼにおいて魔法とは、個々の想像力によって変わるモノなんだとか。
詠唱とは、頭の中で使いたい魔法の形を想像する事が苦手な人が、その形を固定する為に行うモノらしい。その為、詠唱の長い人も居れば短い人もいて、当然無詠唱でバンバン使う人もいるらしい。
日本で暮らしていた俺はゲームなどの知識でそういった想像力は補える為、ファンカレアが用意してくれた的に目掛けて様々な魔法を使い続けた。
そうして訓練は順調に終わりを迎えて、停止していた時間は元に戻り進み始める。
「それじゃあ、私は先にフィエリティーゼへ行くわね。色々と説明しなくてはいけないから」
「よろしくお願いします。藍くんの転生先はエルヴィス大国の王宮内でいいんですか?」
テーブルの席から立ち上がり紫黒のヒビが作り出した空間へと入ろうとするミラにファンカレアは声を掛ける。
「いいえ、夜中とはいえ王宮内にあなたの魔力をぶつける訳にはいかないわ」
「ファンカレアの魔力?」
転生するにはファンカレアの魔力が必要ってことかな?
でも、何が問題なんだろうか?
「今現在、エルヴィス大国にはファンカレアの魔力に敏感な奴らがいるのよ。神聖教会っていう組織なんだけれど、そいつらに見つかると面倒なのよね……」
「お、おお……そうなのか?」
なんかよくわからんが、教会っていうくらいだからファンカレアを信仰している団体なのかな? だとしたら、ファンカレアの魔力が溢れる王宮に押しかけてくるかもしれないとか……流石にそれはないか。
でも、ミラの顔からするにその可能性が大な気がする。
「まあ、とにかく王宮内はダメね。場所はそうね……”南にある森”でいいわ」
「えっ……ミラ、そこはちょっと……」
「それじゃあ、合図は送るから。よろしくね」
ファンカレアが何かを言おうとしていたが、それに構うことなくミラは白色の世界から姿を消してしまった。
「ファンカレア、何か言おうとしてたみたいだけど良かったの?」
「い、いえ、よくよく考えたらその方がいいのかな……なんて」
「ん?」
そこまで言うとファンカレアは「気にしないでください」と言って手を振り出した。
それから残った四人で転生してからの段取りを確認して、ミラの合図を待っている間に最後の調整に入る。
ちなみに、俺の服装はボロボロの日本製の服から魔力で作り出した漆黒の服へと変えている。
てっきり【漆黒の略奪者】を使わないと着れないモノだと勘違いしていたが、そういう訳ではないと黒椿に教えてもらった。
どうやら、この場にいる俺以外の全員は魔力で服を作っているらしい。
その方が戦闘時に破れたりしても瞬時に修復できるし、イメージを一度固定してしまえば崩れることもないのだとか。その分魔力の消費は多いとのことだったが、俺は魔力量がとんでもないことになっているらしいので常時魔法服で過ごしていても問題ないらしい。
「そういえば……」
「むぐっ……なんだ?」
黒椿からもらった煎餅を美味しそうに頬張るグラファルトに視線を向ける。
なんかもう見慣れてしまって敢えて突っ込まなかったけど、グラファルトの着てる服って、精神世界で見たのと同じなんだな……。
そうしてグラファルトの服を見ていると、それに気づいたのかグラファルトは煎餅を置いて俺に話しかけてきた。
「ああ、服のことか。精神世界で黒椿が渡してきたこれは動きやすかったからな、我は服に興味ない故そのまま魔力で作り直したのだ」
「なるほど……まあ、似合ってるし良いんじゃないか?」
「そ、そうか! ならこのまま着て行くことにするっ」
俺の言葉にグラファルトは笑みを浮かべてそういった。
そんな風に話を続けていると、不意にファンカレアが身長よりも長い杖を取り出し魔力を込め始める。
そうして、俺たち四人を囲むように地面には黄金の魔法陣が展開され、俺たちを光で包み込んだ。
次に目を開けた時、そこは儀式の間の中心部分だった。
「急にすみません、ミラから連絡があったものですから」
「ということは、そろそろ行かなきゃいけないのか」
そうして、俺は視線を儀式の間の奥にある魔法陣へと向けた。
「説明したと思うけど、僕は今回表に出ることは出来ないから、精神世界でサポートしていくよ」
「ごめんね」と言い、黒椿は申し訳なさそうに手を合わせる。
どうやら、黒椿の力は相当強い物らしい。
転生した直後はフィエリティーゼにわずかな揺らぎが発生してしまい、そこに続けて黒椿の魔力が干渉すると作戦に支障が出る可能性があるのだとか。
その為、今回の件が片付きフィエリティーゼにおいて十日ほど時間が経過してから、黒椿を表に出すことに決まった。
黒椿は精霊である為、俺の眷属として召喚する形式を取る必要がある。
もし、俺を仲介せず顕現してしまうと、世界に影響を与えかねないとファンカレアが説明してくれた。
なので一度眷属として召喚し、俺と黒椿の間に繋がりを作る為の契約を行わないといけないらしい。所謂主従の契約に近いものなんだとか。
ややこしいことこの上ないが、これも世界の均衡を保つ為と言われれば仕方がない。
「わかった、頭の中で会話はできるんだよな?」
「うん! それは問題ないと思うよ。グラファルト、藍をよろしくね?」
「うむ!」
グラファルトに声を掛けて、黒椿はその姿を消した。
多分、あの精神世界に戻ったんだと思う。
(黒椿?)
(はいはーい! ちゃんと聞こえてるよ)
試しに声を掛けてみると、元気な黒椿の声が返ってくる。
そして、俺とグラファルトはファンカレアを先頭にして魔法陣がある場所へと進み始めた。
「……藍くん」
魔法陣が目の前まで来た時、不意にその足を止めファンカレアは俺の名前を呼び、俺の方へと振り向いた。
その顔は不安そうで……何かを心配しているような、そんな表情だ。
「どうしたの?」
「藍くん、貴方はこれから……多くの転生者たちをその手で殺めることになるでしょう」
「……ッ」
そんな言葉を口にして、黄金の瞳は静かにこちらを見つめている。
「ですが、それは貴方の背負うべき罪ではありません。それは、私が背負うべき罪なのです。気休めでしかありませんが、この言葉をしっかりと覚えていてください」
「……」
「貴方は、一人ではありません。その罪も、責任も、全てを背負う必要はありません……貴方が背負うモノをどうか、間違わないでください」
今にも泣き出してしまいそうな表情で、ファンカレアは俺に語りかけてくる。
正直、ファンカレアがどうしてそんなことを言い出したのか、俺にはよくわからなかった。
でも、それでも、この言葉を決して忘れてはいけないと……不思議とそう思う自分がいる。
俺が何も言わずにその言葉を聞いていると、隣にいたグラファルトが俺の腰のあたりを思いっきり叩いた。
「どうやら創世の女神はお前のことが心配らしい。だが、それは我も同じだ。気をしっかり持て、藍。安心しろ、どんな時でも我がお前の傍に居てやる。お前が間違えた時は我がお前を止めてやろう」
「……ありがとう、二人とも」
どうやら、俺は知らない内に心配を掛けていたらしい。
ダメだな……心配されるなんて。
これじゃあ、ちゃんと約束を果たせるかどうかわからないじゃないか……。
大丈夫、大丈夫。
ヴィドラス、アグマァル……わかってるよ。
約束通り、俺はあいつらを、ちゃんと――から。
「よし、それじゃあそろそろ行くよ!」
俺は両手で頬を軽く叩き、ファンカレアに笑顔でそう告げる。
「どうか、世界をよろしくお願いします……行ってらっしゃいッ」
「行ってきます!!」
涙を流しながら、それでも笑顔を作るファンカレアに別れを告げて、俺とグラファルトは魔法陣の中へと足を踏み入れた。
「藍くん……私は、私は心配です」
誰も居なくなった儀式の間にて、ファンカレアは顔を覆い震える声でそう呟いた。
そうして、彼女の頭の中で再生されるのは……グラファルトによって告げられた、優しい青年の心の闇についての話だ。
『藍から絶対に目を離すな。最悪の場合――あやつの心は狂気に呑まれてしまうぞ』
そう語るグラファルトは更に話し続けた。
疑問に思っていたことを整理していくように、順を追ってその不気味な違和感を語り出す。
『正確にはもう狂い始めているのかもしれない……おかしいとは思わないか? 人を殺すのだぞ? それも一人や二人ではない、千を超える数を殺すことになるのだ。それを説明した上で、どうしてあんなにも簡単に頷くことが出来る?』
その言葉に、黒椿もファンカレアも得体の知れない恐怖を覚える。
そう、今まで見て見ぬ振りをしていたが、違和感は少しづつ確かに存在していたのだ。
『恐らくではあるが、我の記憶を覗いたことで、それがあやつの精神に少しづつ影響を与えていたのであろう。そして、それを我らに告げることなくあやつは一人で抱え込むつもりだ。怒りも、嘆きも、人を殺めるその罪も、世界を守るという重責と共にそれらを全て背負い込み……そして壊れてしまう』
そうならない為にも、我らで支えなければならない。
そうして、グラファルトの言葉は終わりを迎えた。
「……藍くん、一人で背負わないでください」
ファンカレアはその両手を合わせて胸の前へと持っていく。
そして、ここにはいない青年を想い、祈りを捧げるのであった。
「ごめんなさい……何も出来なくて、本当にごめんなさい……」
神々の頂点に君臨する創世は、自らの力を封印した己に対して心の底から後悔し、そして嘆き続けた。
己の罪をも一人で背負う青年の力になれない……愚かなる自分自身を。
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