とある日の放課後③

 パチリ。パチリ。パチリ。


 部室内に、駒と盤のぶつかる音が響き続けます。ある時は短い間隔で。またある時はとても長い間隔をあけて。それはまるで、不規則に流れ続ける音楽のよう。


「へー。そんな手あるのね」


 中盤。先輩は、盤上を見つめながら感心したようにそう告げました。


 僕の指した手は、3九銀。一度4八の地点に上げた銀を元の場所に戻すという損な一手です。


「手損ではあるんですけどね。でも、意外と有力なんですよ、これ」


「うん。確かに。指されてみると、困ってるわね」


 苦々しいような。それでもどこか嬉しそうな。そんな、曖昧な表情を浮かべる先輩。先輩が今何を考えているのか、僕にはさっぱり分かりませんでした。


 その後も少しずつ対局は進み……。


「負けました」


 そう言って、先輩はゆっくりと頭を下げました。


「ありがとうございました」


「やっぱり、あんた強いわね。歯が立たないっていうのはこういうことを言うのかしら」


「いやいや。結構こっちも危なかったですよ。例えば……」


 駒を並べ直しながら感想戦を始めます。


 丁度その時。


「お待たせだよー!」


 バタンと入口の扉が開く大きな音。そちらに目を向けると、視線の先には一人の女性。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。


「いらっしゃい、お姉さん」


「お帰りなさい、シオンさん」

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